第20話「催眠魔法で幼女化するダークエルフ!?」

「ほーら、メサちゃん、良い子だから、その大きな矢を地面に置こうね~? ご主人様の言うこと、わかるかな~?」


 俺は自分自身でも気持ち悪くなるような猫撫で声を出して、メサに呼びかける。


「…………は、はい……ご、ご主人様……」


 瞳をとろんとさせて、メサは素直に頷く。

 そして、お行儀よく強弓を地面に置いた。

 催眠魔法のかかりは上々だ。


「よーしよし! いい子だね~、メサちゃんは! ご主人様の言うことをちゃんと聞けるとても良い子だね~! えらいえらい!」


 まるで幼女に接するかのように、大げさに褒める。

 催眠魔法というのは話術も大事だ。


 まぁ、話術を使わずに強制的にねじ伏せて従わせることもできないことはないが、一歩間違えば人格を破壊してロボットのようになってしまう恐れがある。

 催眠魔法も運用が難しいのだ。でも、楽しい。


「わふっ……♪ ありがとうございますっ……ご主人様ぁっ……♪」


 俺に褒められたメサは、顔を赤くしてモジモジしていた。

 さっきまでの、気高くてツンツンしていた姿からは考えられない変貌っぷりだ。


「そうだ。せっかくだから撮影魔法を使うか」


 俺はさらなる魔法を行使して、メサを撮影することにした。

 これも、目から使う魔法だ。俺が見た光景が、映像として保存される。


 さらには、いつでもどこでも投影魔法を使って宙空に再生することができるというスグレモノである。


「ふふふっ、メサちゃんはかわいいな~。かわいい、かわいい、最高にかわいい! 世界で一番かわいい!」


「はわわっ……! そ、そんなに連呼されると、恥ずかしいですぅ……はうぅ♪」


 心が完全に幼女と化したメサは俺の言葉にすっかり気を良くして、表情が綻んでいる。戦闘種族であるダークエルフだとは思えない表情だ。

 そんな映像を俺はしっかり超高画質で録画しておく。


「良い子でかわいいメサちゃんには、お兄ちゃんがご褒美をあげちゃおうかな~? ふふ、メサちゃんのエルフ耳を撫でてあげるよ」


 俺は猫撫で声を出しながら、本題に踏み込んだ。

 エルフにとって耳は弱点だ。敵に触らせるなんて普通はありえないが――。


「ふえっ!? お、お兄さん、メサのエルフ耳を撫でてくれるのっ? う、嬉しいよぅっ♪……だ、だけど、恥ずかしいよぉぉ……」


 深い催眠状態下では本心や欲求を隠すことはできない。催眠魔法がかかる前は全力で拒絶していたが、心の奥底ではエルフ耳を触られることを望んでいるのだ。


「はは、なにも恥ずかしがることはないよ? お兄さんに任せておけばいいんだ。ほぉら、こちらに頭を向けてごらん」


 さらに近づくとメサはモジモジして逡巡しながらも――最後には、俺のほうに頭を向けた。


 もう待ちきれないとばかりに、エルフ耳がピコピコ♪と動いている。

 まるで犬の尻尾のような反応だ。


「よぉし、そのかわいいエルフ耳、触ってあげるよ~」


 俺は両手を伸ばすと――むんずっとエルフ耳を掴んだ。


「きゃふぅうっ♪」


 それだけでメサは嬉しそうな声を上げて、全身を痙攣させていた。


「おっと、ちょっと強く掴みすぎちゃったかな~? でも、大丈夫、優しくしてあげるからね~?」


 安心させるように言い聞かせながら、マッサージするように両手を優しく動かす。


「きゃうんっ、んんぅんっ!」


 メサは身を左右によじりながら、エルフ耳を嬉しそうにピコピコ♪動かしていた。

 やはり、いい……! エルフ耳は至高!


「ふふふ、我慢しなくていいからねー? その気持ちよさに身をゆだねちゃっていいんだ。なにも怖くないからね~?」


 それにしても、我ながら気持ち悪いな……。言動だけで通報されるレベル。

 だが、俺はどんなときでも本気だ。

 やるからには、徹底的にやる!


「ほぉーらメサちゃん! もっとエルフ耳で気持ちよくなっちゃおうねぇ~? おぢさんが、もっとかわいがってあげるからね~」


「んぅん、あぁあっ……お、お兄さんが、変なおぢさんになっちゃってるぅ? もうメサ、わけがわからないよぉ~~~!」


 『お兄さん』から『変なおぢさん』にランクアップ(人間的には大幅にランクダウン)した俺は、思うさまメサのエルフ耳を揉みしだきまくる。


 強く、弱く、ときにフェザータッチも交え――これまでに百回の転生の間に培ってきた対エルフ専用ハンドテクニックの奥義を繰り出す!


「ふぁあっ、はぁあっ♪ メサ、こんなの初めてぇ!」


「ははは、これまで千人を超えるエルフの耳を触ってきたからねぇ~。おぢさんにはどうされればいいか、わかっちゃうんだ」


 俺は転生のたびに最低十人のエルフ耳を堪能している。

 つまり、延べ人数は千人に達している。筋金入りのエルフ愛好者なのだ。


「やぁん、もう、だめぇ、おかしくなっちゃうっ、怖いよぉ」

「大丈夫だよ。このまま、いこう! いけるところまで、いっちゃおう!」


 さらに魔力を行使して、メサのエルフ耳の感度を極限まで高めた。

 そして、対エルフ耳用究極奥義『超絶悶絶エルフ耳マッサージ改3』を繰り出す。


 長年の研究の成果を見せてやる!

 魔導騎士はダテじゃない!


「きゃうぅううう! だめっ、らめぇええええ! メサ、どこかにいっちゃうぅう!とんじゃうぅううーーーーーーー! ふあぁーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 メサは絶叫しながらガクガクと激しく全身を痙攣させた。

 熱を帯びたエルフ耳がビクンビクンと脈動しているのが、こちらの両手に伝わってくる。

 

「ふあ、あ、あぁあっ……♪」


 メサは瞳をトロンとさせて、だらしなく開いた口から甘い吐息を漏らす。

 頬は上気して、ほんのりとピンク色に染まっていた。

 体に力が入らないのか、足元がふらついている。


「……よくがんばったな、メサ。これでメサは大人の階段を昇ったんだぞ」

「……大人の階段?」

「ああ、そうだ。メサはこれで一人前のダークエルフになったんだ。おぢさん……いや、お兄ちゃんも嬉しいよ!」


 メチャクチャな理屈なのだが、俺は「よくやった」とばかりにメサの頭を撫でてやった。

 

「わふぅ……♪ な、なんだかよくわからないけど……メサも嬉しいよぉ……♪」


 メサはくすぐったそうに目を細める。

 すっかりこちらに懐(なつ)いたので、自然と俺のほうに身体を寄せてきていた。


「おー、よしよし。メサちゃんは、本当に良い子だな~。これなら特別にお兄ちゃんの妹にしてやってもいいかもな~?」


「お、お兄ちゃんの妹?」


「ああ。こんなにかわいいんなら、そうしてあげてもいいなって思うぞ。……でも、まぁ、今日の催眠魔法はこんなところでやめておくか」


「ふえ?」


 ちょっと名残惜しいが、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。

 催眠魔法は長い時間かけすぎると、本来の人格を破壊してしまいかねないのだ。


 というわけで――。

 俺はメサの目の前でパチンと指を鳴らした。


「…………ぬ、う?」


 とろけていたメサの表情が、一気に理性的なものへと変わっていく。

 そして、俺に身体を押しつけている状況に気がつき――。


「なっ――なななぁっ!?」


 慌てて俺を押しのけて、距離をとった。

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