第21話「激おこダークエルフちゃん魔力覚醒~」

 だが、先ほどの影響が大きいので足がもつれて転びそうになっていた。


「うう……いったいこれは、どういうことだ? 体がおかしい……ふわふわする……お、おまえっ……いったい、我になにをしたのだっ……?」


 なお、催眠状態のときになにがあったかという記憶は本人には残っていない。

 だから、あえて映像に残しておいたんだけどな。俺ってば、優しい。


 俺は魔王のような邪悪な笑みを浮かべて、メサに向って口を開いた。


「くく……メサよ、おまえが意識を失っている間、なにがあったのか知りたいか? なんなら教えてやってもいいぞ?」


「うぐっ……な、なんだ、この嫌な予感は……! 我の中の第六感が絶対に教えてもらってはならぬと訴えかけている……!」


 ほほう、さすがはダークエルフ。

 完全に催眠状態にかかっていたはずなのに危機を察知するとは。


「まあ、せっかく記録を残してやったんだから遠慮せずに視聴しろよ。これは俺にとっても永久保存版って感じだしな!」


「や、やめろっ! なんだか知らぬが、とても嫌な予感がする! 我の本能がそれを見たらいけないと叫んでいるのだ!」


 メサは激しく拒絶する。

 だが、そんな反応を見せられると――ますます視聴させたくなるのが俺であった。


「いや、意地でも見てもらうぞ。もちろん逃げても無駄だ。束縛魔法で身動きできないようにしてやる」


 と言ったときには、すでに神速のスピードで束縛魔法を発動してメサの動きを封じている。俺はやるときはやる男なのだ。容赦しない。


「ぬぐっ!? は、放せっ! 我を解放しろ!」

「あんなに素晴らしい動画なんだから見てもらわないとな。俺は感動すら覚えたぞ。催眠状況下では本人の心の奥底にある欲求が如実に現れるんだ。だから、おまえは深層心理では、ああいうキャラになることを望んでいるってことだ」


 俺は投影魔法を使って、超大画面のスクリーンを宙空に構成した。

 もちろん、メサの視界の真正面にだ。


「なっ、なんだこの魔法は……!?」

「これでさっきのお前の姿を映像として再生することができる。喜べ。特等席だぞ?くくく……それでは、上映スタートだ!」


 俺の声に反応して、動画が開始される。

 せっかくなので俺もメサの横に移動して視聴することにした。


『ふえっ!? お、お兄さん、耳を撫でてくれるのっ? う、嬉しいっ……! で、でも、恥ずかしいよぉ……』


 画面の中のメサは幼女状態になって俺に媚び、酷い姿を晒している。

 それをメサは驚愕の表情で見ていた。


「なっ……なんなのだ、これは!? ひっ、ひぃいっ……! こ、こんなもの我ではない! やめろっ、こんなものフィクションだ!」


 予想どおり、メサは羞恥のあまり騒ぎ始めた。


「これは完全なるノンフィクションだぞ。さっきのおまえは本当にかわいかったからなぁ~。ほれ、そろそろクライマックスに入るぞ!」


 そして、映像では――。


『ふぁあっ、はぁあっ! メサ、こんなの初めてぇ!』


 画面の中のメサは放送禁止ギリギリレベルの表情を晒していた。


「やめろやめろやめろぉおおおお!」


 そして、絶賛強制視聴中のメサは束縛魔法を断ち切るような勢いで叫ぶ。

 というか、危うく打ち破られそうだ。


「おいおい、最後まで見ろよ」


 なので、さらに束縛魔法をかけ直してやる。

 ここまで来たら最後まで見てもらわねば。


『やぁん、もう、らめぇえ、なんかきちゃうっ、怖いよぉ』

『大丈夫だよ。しっかりとメサちゃんが大人になるところ見ててあげるから! このまま、いこう! いけるところまで、いっちゃおう!』


 ……というか、我ながら迫真の演技すぎて気持ち悪いな……。

 まぁ、催眠魔法というものは演技力も必要なのだから致し方ない。


 俺は、魔法のためには妥協をしない男なのだ!

 そして、画面の中では、いよいよクライマックスが訪れる――。


『きゃうぅううう! だめっ、らめぇええええ! メサ、どこかにいっちゃうぅう!とんじゃうぅううーーーーーーー! ふあぁーーーーーーーーーーーーーーっ!』


 うん、ダークエルフちゃんマジ天使。

 これは眼福。


「くくく……メサよ、どうだ? おまえのことを最高にかわいく撮れているだろう?俺の魔法をもってすれば全世界同時放映も可能だ。なんなら宇宙空間にも写すことだってできるぞ。いやぁ~、本当に素晴らしい。全宇宙に共有したい」


「…………殺す」

「ん? なんだ? 俺は主人公特有の難聴気味でな。なんて言った?」

「ぶっ殺す! 貴様は絶対に殺す! バラバラにしてくれる! 八つ裂きだ!」


 どうやら誇り高きダークエルフのプライドをひどく傷つけてしまったらしい。魔力が一気に跳ね上がり、二重にかけた束縛魔法がまとめて打ち破られてしまった。


「おー、やるな。とはいっても、おまえの魔力を最大限に引き出すためにあえて極限羞恥プレイをしかけたんだが。お兄ちゃんは嬉しいぞ?」


「うるさいうるさいうるさい! 死ねぇえええええええええ!」


 怒りに駆られたメサは強弓を使うことなく、素手で魔法矢を放ってきた。

 火・風・雷・毒の四属性を混合した凶悪なやつだ。


「おぉうっ!」


 さっきまでとは比べ物にならないほど、威力もスピードも段違いだ。

 これをくらったら、ちょっと危ない。


「死ね死ね死ねぇええええええええ!」


 しかも、両手を使って連続で魔法矢を放ってくる。

 そのどれもが多重属性かつ、強烈。いや、凶悪――。


「いいぞ、いいぞ! もっと撃ってこい!」


 俺は両手に魔力バリアを展開して、襲いかかってくる魔法矢を相殺していく。

 手のひらを使って弾いたり、威力が強いものは殴って消し飛ばしたり。

 ボクシングをしているような感じだ。


「くそっ、くそっ! なんでこちらの魔法が通らない!」

「そりゃあ、俺が史上最強の魔導騎士だからだ。だが、おまえもいい線いってるぞ。なんなら俺がこれからも定期的に稽古してやっていいくらいだ」


 俺としては敵だろうと味方だろうと強い奴と戦えればどうでもいい。

 それにエルフは大好きだし。


「ふざけるな! なんで敵のおまえに稽古されねばならんのだ! 殺す! 絶対に殺す! おまえを亡き者にして、あの映像を抹消する!」


「まったく、あんなにかわいく撮れてるのになぁ。おまえは怒った顔より笑った顔のほうが絶対にかわいいぞ? せっかくかわいいんだからイライラするのはやめろよ」


「かわいいとか言うな! おまえが我をイライラさせておるのだろうが!」


 ごもっともである。

 まぁ、俺もちょっとやりすぎたかもしれない。

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