第15話「VS30人の生徒~褒められて伸びる魔法~」

「了解です! えへっ、先生だけに先制攻撃! 攻撃隊のみんな! まずはセンセーに先制攻撃するよーーー! いっけぇーーーーーーー!」


 先手必勝とばかりにサキは自ら魔法をぶっ放してくる。

 それに乗せられるように、攻撃隊の生徒たちも攻撃魔法を撃ってきた。


「おお、いいぞ。主導権を握るのが大事だからな!」


 集団戦では最初に一撃を決められるかどうかは、とても大きい。

 まずは最初に数を減らせるかどうかが、その後の戦いの鍵を握る。


「ほい、相殺!」


 片手で受け止めたものの、サキの魔法はかなり強烈だった。

 もうこれ教えることがないんじゃないかと思うぐらいだ。天才か。


 一方で、無詠唱魔法に慣れてないほかの生徒たちは発動に失敗したり変な方向に魔力をぶっ放したりする者もいた。それでも、五人が俺の分身に魔法を直撃させている。上出来だ。


「おー、いいぞ。なかなかいい威力だ。失敗した奴らも気にせずどんどん撃ってこい! 挑戦し続けてれば、できるようになる!」


 ネガティブ思考が一番の敵だ。難しく考えるから、失敗する。

 そもそも古典魔法はあえて難解にしている面がある。権威づけというやつだ。

 だから、俺はひたすらシンプルに考えるよう指導する。


「使う魔法をイメージしたら、あとは自信を持って撃て! それだけでいい!」


 俺の言葉を受けて、生徒たちはバンバン魔法を撃ってくる。

 あえて俺は分身たちにも回避させることなく受け続けてやる。

 そのうち、生徒たちの魔法発動率が上がってきた。


「よし、いいぞ。それじゃ、今度はこっちから行くからなー。後衛の防衛隊、しっかり守れよ!」


 最初はサービスで、ちゃんと心の準備をさせてやる。

 そして、威力を落とした魔法を分身たちに放たせた。


「皆さん、守りますわよ!」


 ミナミがリーダシップをとって防御魔法を展開する。

 オーロラのようなバリアが展開されて、分身たちの魔法を防いでいく。


「さすがだな、ミナミ。おまえはやっぱり防御魔法向きだ」


 攻撃魔法よりも防御魔法は頭を使う。どこにどう魔法を展開すれば効率的に守れるか考えねばならないのだ。知性が大事になってくる。


「お、初めてにしては、みんなけっこうバリアを張れてるな」


 ミナミという優等生タイプのお手本がいるからか、さっきの前衛隊よりも上手くいっている。……まぁ、天才型で突出型のサキは真似ようがないか。


「センセー! 隙ありー!」


 その間にも、容赦なくサキは俺に魔法をぶっ放していた。

 この遠慮のなさこそ、戦場では大事だ。


「はい、残念」


 バリアが間に合わなかったので、サキの魔力球を手のひらでスパァン! と上空に弾き飛ばした。


「わ、なにそれっ!?」


 サキは目を丸くする。


「魔力を肉体に宿らせて、それで弾くんだよ。おまえたちにはまだ早い技術だけどな。武道の心得も必要になってくるし」


 俺は魔術も武術も使える魔導騎士。

 魔剣がなくても、これくらいの芸当はできる。

 魔導格闘術だって体得しているのだ。


「ま、魔導格闘術とか魔導剣術とかはレベルが上がってきたら教えてやる。とにかく今は攻撃魔法を使うことに集中しろ! バンバン撃ってこい!」


「はぁーい、センセー! みんなぁ! センセーをやっつけちゃおーーー!」


「「「おーーーーーー!」」」


 元気で、たいへんよろしい。サキに鼓舞された生徒たちは、先ほどよりも強力かつ精度の高い魔法をガンガン使ってきた。


「いいぞ、いいぞ、その調子だ!」


 強さを百分の一以下に押さえているとはいえ、ひとり、またひとりと俺の分身たちがやられていく。こりゃ、思った以上に成長が早いようだ。


「よし、ちょっとレベル上げるぞ!」


 このままじゃ簡単に押し切られそうなので、俺は分身たちを強化してやった。

 具体的には、八十分の一程度の強さにして攻勢に転じた。


「皆さん、落ち着いてバリアを張ってください! あ、右手側が手薄ですわ!」


 そんな中、ミナミは防衛隊に適確に指示を出しつつ自らも効果的なバリアを張っていく。

 

「おー、いい判断だ。……なんだ、みんな意外と実戦向きだったんじゃないのか?」


 魔導偏差値とか古典魔法とか、そんなものはこいつらには不向きだったとよくわかる。平和なときには、そういう魔法学歴的なものが出世に影響するだろうが――今は非常時。実戦に強い奴こそ評価される時代だ。


「はは、こりゃ楽しいや」


 人間と戦うのはモンスターや魔族と戦うのとは、また違った楽しみさがある。

 しかも、教え子たちが見る見るうちに強くなっていくのも充実感があった。


「あはは、すっごく楽しいー! 魔法ぶっ放しまくるの最高ー!」


 サキは水を得た魚状態で強烈な魔法をガンガン撃ちこんできた。

 とんだ魔法狂を目覚めさせてしまったかもしれない。


「ちょっと、サキ! 動き回りながら魔法を撃たれるとバリアを張るのも大変ですのよ!?」


 そう文句を言いながらも、ミナミもサキに対応するように動いて魔法を張っている。さらには、前衛隊の中で負傷した生徒にも回復魔法をかけていた。

 

 状況が、よく見えている。やはり、サポート役には打ってつけだ。

 サキが防衛隊だったら攻撃に夢中になっちゃって、ほかの生徒たちのことまで考えられないだろう。


「おまえたち、本当にすごいな。八十分の一でも支えきれないか」


 やはり楽しむことが上達の近道なのだろう。

 まあ、実戦ほど楽しいものはないからな!


「センセー、覚悟ー!」


 そして、サキは途切れることなく俺に向けて魔法を撃ちこみ続けている。

 それによって、俺は分身たちを助けに行くことができない。

 つまり、足止めに成功しているわけだ。


「先生の数が減ってきましたわ。なら、こちらも攻勢に転じますわよ!」


 そして、ミナミも状況が優勢と見るや、自分の判断で後衛隊を攻撃参加させる。

 これを言われるまでもなくできるとは――いや、まいった。


「おまえら最高だろ!」


 前衛隊と後衛隊が揃って攻撃に集中することによって、俺の分身たちはバンバンやられていく。


「いっけぇーー! やっつけちゃえーーー!」

「このチャンスを逃さず、一気に殲滅してしまいましょう!」


 サキとミナミの鼓舞を受けて、生徒たちは驚くべきほど威力の高い魔法まで放ってきた。

 やはり褒められれば伸びるっていうことだろう。

 俺の教育方針は間違っていなかったようだ。

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