第14話「魔法集団戦の練習~魔法偏差値よりも分析魔法で生徒の適性を見抜く~」

☆ ☆ ☆


 というわけで――翌日から、俺は武道大会に向けた特訓を開始することにした。


「あー、なんか急遽、一週間後にダーノの魔法学園の生徒と武道大会やることになったらしいぞ」


「「「えぇええええ!?」」」


 校庭に集められた生徒たちは、俺の言葉に声を上げて驚いていた。

 それをスルーして、話を続ける。


「この武道大会は三十対三十の集団戦だそうだ。てなわけで、おまえらをダーノの連中に勝てるように鍛える。ま、モンスターがいつ侵攻してくるかわからない状態で、こんなことしてる場合じゃないと思うんだけどな」


「そうですわ! 本当に、そんなことをしてる場合じゃないですわよ!」


 ミナミは、怒りを露わにする。

 一方で、サキはのんびりした声を上げていた。


「ダーノって、隣のすごいおっきな国だよね? なんだか、ボークンってのが治めてる」

「人名みたいに言わないでください。暴君ですわ! ダーノの帝王バーチは悪逆非道な君主として有名ですのよ!」

「そうなんだ。あはは、あたし知らなかったよ。あまり隣の国のこととか興味ないし」


 優等生のミナミと、マイペースなサキ。やはり対照的なふたりだった。

 緊張感がなくなりかけるが、そんな中、男子生徒が挙手する。


「先生! ダーノの魔法学園って、すごいエリートだぜ!? 俺、昔、ダーノに住んでたから知ってるんだ! そんな奴らと戦ったって勝てるわけねーって! 魔法偏差値は相手は70、こっちは60くらいだし!」


 魔法偏差値なんてものがあるのか。俺が遠い昔に学園に通ってた頃は、そんなものはなかった。だが。


「それは、俺がお前らの潜在能力を引き出す前の話だろ? そもそも隣国の魔法だって、古典魔法使ってるんだよな? こっちは無詠唱でやれるんだから余裕だって」


 いくら素質があろうと魔力があろうと、古びた魔法を使っているようじゃダメだ。

 そもそも詠唱しているようじゃ、実戦向きではない。


「で、でも……わたくしも、苦戦すると思いますわ……ダーノはこちらよりも国土が広く、人口も多く、素質のある人間を選抜していますから……」


「おいおい、おまえほど素質のある人間が弱気な発言をするな。気持ちで負けてたら勝てるもんも勝てなくなっちまうぞ」


 やはり今回は世界を救うだけじゃなくて、別の楽しみがあるようだ。

 魔法学園を中退した俺が、まさかこんな形で学園の生徒を導くことになるとは。


「うん、とっても楽しそう! モンスターと戦うのもいいけど、こうやって学園対抗戦をするのって青春だよね!」


 楽天的なサキは、まるで物怖じしない。

 状況を楽しんでいるようだ。やはりこいつは大物だ。


「青春か。まぁ、そうだな。ひたすらモンスターと戦うだけってのも、つまらないだろう」


 俺のような戦闘マニアなら、それでもいいんだが。せっかくだから、学園生活も満喫させてやるのも悪くはない。もし大会中にモンスターが攻めて来たとしても、俺がひとりで片づければいいわけだし。


「俺が指導するからには負けはない。おまえたちの適正な強さは魔法偏差値なんかよりも俺のほうが完全に見抜いている。俺は史上最高の分析魔法を使えるからな」


 どうせ魔法偏差値なんてものはテストかなんかで、一面的な部分しか測らない偏った数値だろう。一方で俺は、その人物の潜在能力まで測ることができる。


「というわけで、前衛と後衛で大きく二グループに分けるぞ。十五人ずつでちょうど半分になってバランスもいいしな。それじゃ、いくぞ」


 高度な分析魔法を使って、改めて三十人の適性を測る。昨日、潜在能力を引き出したときにある程度わかっていたが、今回はより慎重に行った。


「んー……よし。わかった」


 三十人の魔法適正と、ついでに身体能力も加味して俺オリジナルの査定をした。


「それじゃ、前衛グループのリーダーはサキ。後衛グループのリーダーはミナミだ。攻撃はアバウトな感じでもいいが、防御は緻密さを求められるからな」


 性格的にも、それがベストだろう。

 というか、魔法適正というのものは性格に左右される部分が大きい。


「了解です! ダーノの連中なんて、あたしの攻撃魔法で吹っ飛ばしちゃうんだから! みんなも、がんばろー!」


「……後衛は確かに、わたしが適任でしょうね。防御魔法や支援魔法は得意ですし。しかし、いきなり連携が上手くいくでしょうか……」


 能天気なサキと、慎重なナナミ。やはり対照的だ。だが、それでいい。

 サキなんて細かい判断が必要な防御魔法なんて不向きなのは一目瞭然だしな。


「というわけで、練習だ。実戦に勝る稽古はないからな。俺がダーノ役をやるから、おまえらは全力で向かってこい!」


「えー、でも、センセーひとりだと集団戦の練習にならなくないですかー?」


 サキがそんなことを言うが、俺に不可能はない。


「分身魔法を使えばいい。こんなふうにな」


 俺は魔法を使って、二十九人分の俺の分身を作り出した。


「なっ!? なんですか、この魔法は!?」


 ミナミが声を上げて驚く。

 当然、ほかの連中も騒いでいる。


「分身魔法って言ったろ?」

「あっ! カスカ先生の使ってる分身の術に似てるかも! あっちは分身入れて三人だったけど!」


 これは忍術の応用だ。というか、魔術と忍術は一致する部分も大きい。

 一流の忍者は、魔術師でもあることも多いのだ。


「ちゃんと力は抑えてやるから、思いっきりかかってこい!」


 分身の強さは百分の一に抑えてあるが、まずはそれくらいでいいだろう。

 状況に応じて、強さを上げていけばいい。


「よし、それじゃ始めるぞ! 俺を殺す気で向かって来い! というか分身だから殺しても無問題だからな!」


 俺は生徒たちに呼びかけた。

 さっそく、実戦練習開始だ!


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