第16話「魔力欠乏してからが本当の勝負!?」

「おー、よくやったな。分身は全滅か」


 分身は仮初(かりそめ)の命が消えると、消滅してしまう。

 残ったのは、オリジナルの俺だけとなった。


「残るは本物のセンセーひとり! みんな、最後の力を振りしぼろー!」

「あと一息ですわ! 魔力が尽きる前に一気に叩いてしまいましょう!」


 サキとミナミの魔力量はまだ残っているが、ほかの生徒たちは欠乏寸前だ。

 戦いにおいては魔力量の残りも考えておかないといけない。


「よし、残りの魔力全部俺にぶつけてこい! これは戦場じゃなくて練習だからな。最後まで使い切ることで魔力量の最大値も威力も上がっていく」


 現に、俺はそうやって最大値を伸ばしてきた。

 授業だからといって中途半端なところで止めていたら、成長しない。


「よぉし! みんな全部使いきっちゃお! いっけぇえーーーーー!」

「出し惜しみせず、全力でいきますわよ!」


 サキとナナミが全力で魔法をぶっ放し――続いて、ほかの生徒たちも残りの力を振り絞って魔法を撃ってきた。


「おおおっ」


 最後ということで集中できたのか――全員、不発や暴発がでることなく魔法行使に成功。しかも、狙いはバッチリ俺に定められている。


「やるなぁ、おまえら!」


 三十人分の攻撃魔法を、正面にバリアを展開して受ける。

 まずは、サキの雷撃魔法。続いて、ナナミの氷雪魔法。すさまじい衝撃だ。


 続いて、二十八人分の火炎系を主とした様々な魔法が直撃していった。なぜ火炎系が多いかというと、一番最初に教わる魔法がだいたい火炎系統で使いやすいからだ。


「や、やった!? はぁ、はあっ……」

「い、いえっ……先生は、健在のようですわっ……」


 魔力を使いきったサキとナナミは肩で息をしながら、爆煙で包まれた俺を注視する。なお、俺からは全員の状況は魔法で把握できている。


 どうにか立っているのはふたりだけで、残りの生徒たちは魔力欠乏症でへたりこんでいた。


「まあ、及第点だな。最初は仕方ないが魔力を使いきっても倒れないようにしないとダメだぞ? 魔法使いといっても、いざとなったら肉弾戦で戦わないといけないんだからな」


 そうしないと、戦場では死ぬことになる。俺も世界を救い慣れてない昔は、何度か魔力切れ状態でモンスターと戦ったことがある。

 そんなときに剣術や武術は役に立つのだ。というか、それがなかったら死んでた。


「じゃ、じゃあっ……あたし、最後は拳で先生と闘うっ」

「こ、こうなったら、わたしも、一撃叩きこんでやりますわっ」


 ふたりはふらつきながらも、俺に向けて攻撃を仕掛けてくる。

 いい闘争心だ。


「よし、来い! 俺を殴ってみろ!」


 俺はあえてバリアを解いて、サキとナナミの攻撃を受けることにした。

 まずは、サキが――。


「やああああっ!」


 ここでまさかの、ジャンピング回し蹴り。

 俺の頬にクリーンヒット。


「うん、いい蹴りだったぞ」

「えへへっ……センセー、強すぎぃっ……」


 大技を繰り出して体力まで使いきったサキは、着地することができずに仰向けに倒れ込んだ。


「はああああっ!」


 そして、ナナミはオーソドックスな右ストレート。

 俺の腹部に、これまたクリーンヒット。

 しかし、筋トレを欠かさない俺は肉体が鋼のような硬さなのだ。


「本当に、あなた、強すぎですわよっ……なんなんですの、この体の硬さっ……」


 ミナミは自らの拳にダメージを受けて崩れ落ち、うつ伏せに倒れ込んでいった。


「ま、ダテに百回世界を救ってるわけじゃないからな。俺は転生しても過去の経験値を繰り越せるチート魔法を使っているからいくらでも強くなれる」


 それこそ血の滲むような努力と戦闘を繰り返してきたからこそ、俺は最強の力を手に入れることができたのだ。


「お前たちも、まだまだこれからだからな。よく食べてよく闘ってよく寝て強くなっていけばいい。時間はあるからな」


 滅亡の危機が一年後に迫っているといっても『俺が来なかった場合』だ。

 俺がいる状態では、いくらでも魔物なんて食い止めることができる。


「今回の転生は育成を楽しむことにしたからな。おまえたちが世界を救えるようになるまで、いくらでもつきあうぞ!」


「……あはは……それは、楽しみー……」

「……は、果てしなく遠い道のりになりそうな気がしますわ……」


 倒れた姿勢のままサキとミナミは俺の言葉に応える。

 魔力と体力を使いきっても意識を失っていない時点で合格点だ。


 そんなこんなで、初めての実戦的な鍛錬が終わったのだが――。


「……おっと、魔物が襲来してきやがったか」


 俺の張った魔導警戒網に、魔物たちの動きが引っかかった。

 具体的には、ここから二十キロロ地点に警戒用の薄い結界を張っているのだ。


「ちょっと魔物を駆除してくる。おまえらはそのまま休んでおけ。今日の授業はこれで終わりだ」


「せ、センセー、あたしも行く……」

「わ、わたくしも……」


 こんな状況でも、ふたりは立ち上がろうとする。

 なかなかの根性だ。


「アホ。そんな状態じゃ無理だろ。おまえたちは学生なんだから休むのも授業のうちだ。それに魔物の五千体ぐらい、俺ひとりで余裕だ。んじゃ、またな」


 俺は転移魔法を使って、魔物たちの押し寄せつつある場所に向かった。


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