第12話「女忍者(くノ一)と早食い大食い対決!?」

★ ★ ★


 さて、メシである。

 風呂を上がって着替えた俺は、食堂へやってきた。


 昨日は魔物の襲来や俺の出現で忙しなかった影響で、一堂に会しての夕飯ではなかった。


 今回は、学園の教職員と生徒が揃っての食事である。

 しかも、トヨハ姫も臨席している。


 ちなみに、円卓がいくつも並んでいる立食形式だ。

 奥のほうがトヨハや城からついてきた身分の高い者、あとは校長や教頭など。

 その次は、教職員たち。入口に近いほうに生徒や兵士たちといった感じだ。

 俺は仕方なく、教職員たちのテーブルに向かう。


「皆さん、昨日はお疲れ様でした! 学園と兵士のみなさんのおかげで魔物の侵攻を防ぐことができました。そして、危機を救ってくださり、なおかつ講師を引き受けてくださったナサト様にあらためてお礼を申し上げます!」


 さすが姫騎士といったところか。儀式慣れしているというか、挨拶慣れしているというか。夕方の鍛錬の疲れもまったく見せない。意外とタフだ。


「生徒のみなさんは国の礎(いしずえ)です。今宵は我が国の名産品をとりそろえた晩餐で、英気を養ってくださいね♪」


 そういうだけあって、なかなか豪華な食べ物が並んでいる。上質な肉に新鮮な魚、彩豊かな野菜とフルーツ。一見しただけで本気度がわかる。


 生徒や俺に期待しているという現れだろう。

 俺としても、メシが美味いに越したことはない。


「わー、すごい! おいしそー!」

「サキ、まだ姫様の挨拶の途中ですわよ……」


 こんなときでもサキとミナミはマイペースだ。

 そして、そんなふたりを見てトヨハは微笑を浮かべる。


「ふふ、そう言っていただけると食料を用意してよかったです。それでは、お料理が冷めてしまわないうちにいただきましょうか。どうぞ召し上がれ♪」


 こうして、晩餐会が始まった。

 というわけで――俺は、ひたすらエネルギー摂取モードに入る。

 まずは、肉! 次に、肉! そして、肉!


「うん、いい肉だな。これは極上だ」


 百回世界を渡りあるいてきただけあって、俺の舌は肥えていた。

 戦いのほかに楽しみといえば、食べることだ。


 腹が減っては戦はできぬとは言うが、マズいメシでも力が出ない。というわけで、ほかの教職員と親交を深めることなく、ひたすらガツガツと肉を食らう。


「おお! 言い食べっぷりでござるな!」


 そんな俺を見て、感嘆の声を上げる者がいた。

 俺の正面のテーブルにいた忍者装束を着た二十代前半くらいの女子だ。

 いわゆる「くノ一」と言うやつだろうか。


「拙者も負けてはおられん!」


 どこの時代から来たんだというような口調で言うと、俺に対抗するようにムシャムシャとメシを食べ始める。


「ほう、俺に対抗するとは」

「ふふっ、勝負でござる!」


 というわけで――俺は女忍者(くノ一)と早食い兼大食い競争を開始した。

 俺に挑むとはいい度胸だ!


「ガツガツガツガツガツ!」

「ムシャムシャムシャ!」


 そして、一時間半後――。


「……ぐふっ、拙者の負けでござる……」


 俺のハイペースについてこれることなく、女忍者は撃沈していた。

 まぁ、よくもったほうだ。


 というか、つい貴重な食料を消費しまくってしまった。

 あとで、獣でも狩りまくって調達しておこう。


「早食いと大食いは俺の特技でもあるからな。まぁ、がんばったと思うぞ。これからよろしくな」


「……こ、こちらこそ、よろしくでござる。うぐっ……せ、拙者はカスカという者。三日前に赴任してきたばかりでござるが、毒キノコにあたって先ほどまで寝込んでいたでござる。というか、今朝まで生死の境を彷徨っていたでござる……」


 だから、先日の戦いや授業のときにいなかったのか……校長といい変なモノを食べすぎだ。


 しかし、こうして対していると、それなりの強さであることはわかる。

 教職員が雑魚ばかりじゃなくてよかった。


 しかし、病み上がりでいきなり食べまくるとか、こいつは相当のアホかもしれない。顔色も悪くなっていて、脂汗をかいている。


「ぐぷっ……拙者、もはや、これまで……かもしれないでござる……」


 やはり、アホだった。

 俺は魔法を使って、今にも吐きそうなカスカに状態異常回復魔法をかけてやった。

 青白い光に包まれて、みるみるうちにカスカの顔色がよくなった。


「……おおおっ!? す、すごいでござる! まさか、こんな一気に回復するとは!」

「こんなことで回復魔法を使うとは思わなかったがな……」


 しかし、ここで吐かれるよりはマシだ。これはかなり有効な魔法活用法だったかもしれない。


 これまでに数えきれないほど回復魔法を使ってきたが、ここまで使ってよかったと思える状況はなかった。


「ナサト殿は、拙者の命の恩人でござる! 姫様も出席する盛大なパーティ中に吐いたら、それこそ切腹ものだったでござる!」


 満腹からの切腹にならなくて、本当によかった。


 俺は世界を救ったような気分になった。

 というか、世界を救ったときよりも安堵している。


「それでは皆さま、そろそろお開きといたしましょう♪ お疲れ様でした♪」


 トヨハが締めくくり、晩餐会は平和裏に終わりを告げたのであった。

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