第11話「浴場で暴走乙女たちに追いつめられる最強魔導剣士!」
「むー、センセー! 抵抗しないでください!」
「いや、するだろ。全裸なんだぞ、俺」
「そ、そうですわよ! サキ、やめなさい!」
ミナミまで一緒になって制止する。
「あ、そっか。じゃ、センセー! タオルで下半身隠して自分で椅子に座ってください!」
「どうしても俺の背中を流したいのか?」
「はい! あたし一度決めたら貫き通す性格ですから!」
本当に頑固すぎる。でも、ここで押し問答をしていても無益だ。
なら、さっさと本人の気が済むようにしたほうがいい。
「わかった。じゃ、ちゃっちゃと終わらせるぞ。椅子に行くから、向こうを見てろ」
「やったぁ!」
「って、わたしはしなくてもいいんですよね!?」
サキはガッツポーズを取っていた。
一方で、ミナミは狼狽えていたが。
ともあれ、さっさと終わらせよう。
俺はふたりが向こうを見たのを確認すると、縁に置いていたタオルを手に取り下半身を隠しつつ移動して椅子に座った。
「ほら、いいぞ、好きなようにやれ」
「わーい! それじゃ、センセーの背中流しますね! ほら、ミナミちゃんも!」
「えっ、いえ……サキ……でも」
「いいから、いいから!」
本当に強引だ。
どうやらサキはミナミの手をとって強引にこちらの背中にまで誘導したらしい。
「って、そもそも、おまえらタオル持ってないだろ?」
普通、入浴時にはマイタオルを持ってくる。
瞬間移動魔法で来たということは、そんな用意はしてないはずだ。
「あ、そうだった! うーん、どうしよっ?」
「やっぱりやめませんか? こんなこと……」
こうなったら仕方ない。俺のタオルを渡すか?
でも、ちょっとした拍子に見えそうでまずい。
「センセー! ボディソープ貸して! あたし、素手で先生の背中ゴシゴシする!」
「ちょ、ちょっとサキ!? それは、ちょっと、はしたないんじゃないですか!?」
「ううん、ここまで来てなにもしないんじゃ、つまらないもん!」
そういう問題か? 本当に、こいつの教育には苦労しそうだ。
もっと羞恥心とかそういうものを持ってほしい。
「センセー、早く! というか、魔法使っちゃえばいいよね!」
サキは魔法を使ってボディソープを浮遊させて、自らのところへ持ってきた。
そして、シュコシュコと音をさせて、ボディソープを手のひらに出した。
「えいっ!」
そして、かけ声とともに――ぬるっとした手のひらが押しつけられた。
「うぁおっ!?」
どんな敵に対しても狼狽えない俺が、変な声を出してしまった!
「センセーの背中、すごく硬ーい!」
サキは面白がりながら、手を上下に動かしてくる。
それによって、ボディソープのヌルヌルが拡がっていく。
「あたし右半分を担当するから、ミナミちゃんは左半分をよろしくね!」
「えっ、ちょっ、サキっ!? はわわっ」
シュコシュコと音がして、ミナミの手にもボディソープが出されたらしい。
「ほらほらぁ、女は度胸、なにごとも経験だよ! れっつ・ちゃれんじ!」
普通は『男は度胸、女は愛嬌』なのだろうが――確かに剣士や魔法使いにとって大事なのは度胸だ。って、これはそういう問題なのだろうか?
「うぅ……なんか納得いきませんけど……サキの気が済まないと、いつまで経っても終わりそうにないですものね……」
観念したのか、ミナミも手をこちらの背中に押し当ててきた。
サキの手は小さくて温かいが、ミナミの手は細くて長くて、少し冷たい。
そして、おっかなびっくりといった感じで、ぎこちなく手を動かしてきた。
「ぬぁあ……!」
ぎこちない動きが、かえってゾワゾワする。これまで他人に背中をゴシゴシしてもらったことがなかったので耐性がない。
戦闘狂の俺はこれまでにありとあらゆる攻撃を受けてきて痛みや毒への耐性はあるのだが――こういう類の刺激(?)への免疫はなかった。
「センセー、どーですか?」
「も、もう、こんなことさっさと終わらせますわよ!」
サキは、円を描くように優しく――。
ミナミは、ヤケになったように乱暴に――。
背中というキャンバスは、乙女たちの手によって蹂躙されていったのだった――。
「って、もうやめろ! やめてくれ! お願いだから!」
「えー、なんでですかー? まだ始めたばかりじゃないですかー!」
「こうなったら、とことんやってやりますわ!」
俺の制止を聞くことなく、サキとミナミは素手で背中を洗っていく。
くすぐったいような、気持ちいいような、不思議な感触に背中が襲われていく。
「ちょっ、も、もういいだろっ……! ぎぶあっぷだ!」
痛みならいくらでも耐えられるが、この感触を味わい続けるのは不可能だ。
なんだか変な気分になってきてしまう。
「えー、どうせならセンセーの全身も洗っちゃおっかなーとか思ったんですが!」
「なんだか背中だけというのも不完全燃焼ですわ。もう吹っ切れました!」
変な方向に積極的だ。
チャレンジ精神はいいことだが、いい加減止めないと講師失格である。
「そろそろ調子に乗るのはやめようか。強制的に動きを止めるぞ?」
魔法ひとつで、いつでも自由を奪って傀儡(くぐつ)化することができる。
しかし、こんなことで生徒に魔法を使うのは忍びない。
「でも、断られると逆に貫徹したくなる!!」
「ふ、ふ、ふ……もう、どうにでもなれですわ!」
魔力がアップしすぎたことで、テンションまで上がりすぎているらしい。
こうなったら、仕方ない。世界平和のためだ。
「はい、傀儡魔法」
俺は魔法を発動して、ふたりから自由を奪った。
「あぅ……せ、先生の、いけずっ…………!」
「ううぅ……身体が動きませんっ…………!」
年頃の乙女たちの暴走には困ったものだ。
「……ま、礼は言っておこう。それじゃ、校庭に移動させるから、あり余った魔力はふたりでぶつけあってろ」
「ふえ、ちょっ――!」
「そっ、そんな――!」
俺は瞬間移動魔法を応用して、この場からふたりを飛ばした。
「まったく、おてんばな連中だな……というか暴走しすぎだろ……」
これまで世界を百回救ってきたが、人間関係は最低限しか築かなかった。
救い終わったらさっさと去るので、特に人間関係を深めるのも面倒だったのだ。
そういうわけで恋愛経験0どころか異性に対する免疫も0なのだが……。
しかし今回は学園の講師も務めてみんなを鍛えるので、これまでにない異世界転生になりそうだ。
「……ん、でも、俺ひとりで定期的にモンスターをぶちのめして数を減らしておかないとな」
ついのんびりしてしまいがちだが、世界は滅亡の危機に瀕していることは確かなのだ。だが、あまり俺が魔物を倒しすぎると実戦練習に差し支える。難しいところだ。
「……ま、人類に被害が出ない程度に抑えておかないとな」
俺のわがままで人類の死傷者が出ることは防ぎたい。
なので、この世界全体に魔物の気配を探知するための魔法を張り巡らせる。
世界全体をカバーする魔法なんてバカげているが、それをできるのが俺だった。
これで二十四時間三百六十五日、いついかなるときでも魔物が攻め寄せて来たら把握することができる。俺の瞬間移動魔法ならば、世界中のどこにでも瞬時に移動することができる。それで危機を救えばいい。
いつもなら攻めて攻めて攻めまくって一気に滅ぼすのだが、今回は育成もやらねばならない。まぁ、ある意味でスローライフというやつかもしれない。
百回も世界を救ったし、たまにはゆっくりするのもいいだろう。
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