第10話「温泉入浴と乱入乙女!」
★ ★ ★
鍛練のあとの楽しみといったら、風呂だ。
特に、俺は露天風呂や温泉が好きなのだ。
城内には、魔法によって沸かした湯で入る浴場がいくつもある。
校長や身分の高い者の部屋にある個人用の浴槽のほか、一般の教職員や兵士、学園の生徒たちも使う大浴場だ。もちろん、男女別だ。
「風呂のある世界でよかったな。まぁ、ない場合は適当に魔法で温泉掘って露天風呂作っちまえばいいんだが」
昨日は部屋にある個人用の浴槽ですましたが、今日は大浴場へ向かった。
脱衣所で服を脱いで、浴情へ入る。どうやら、ほかに誰もいないようだ。
トヨハとの鍛練で遅れたこともあり、もう生徒たちは入ったあとらしい。
なお、兵士たちはもっと遅くの時間に入るようだ。
「お、貸切か。こりゃ、いいな」
生徒どもと親交を深めるのもいいが、大きな湯船を独占するのもいい。
俺は頭と体を洗って(魔法を使えば一瞬で綺麗にできるのだが、あえてタオルを使った)、湯船に入った。
「ふぃ~、やっぱり風呂はいいなぁ。あ、どうせなら、魔法で温泉に変えるか」
魔法を行使して、湯の成分を一瞬で温泉に変化させた。白く濁った硫黄泉だ。
自分の思ったとおりに、なんでもかんでもカスタマイズできるから魔法はいい。
「おぉ~、やっぱり温泉っていったら、これだよなぁ~」
これは、以前訪れたグンマ~という国の山岳地帯にあるクー・サーツというところの温泉だ。
あそこは戦闘民族が住んでいるので、なかなか面白いところだった。
槍とか弓矢とか得意な奴がいっぱいいて楽しかった。
だからからか、傷を治すために温泉がいくつもあるのだ。
――フィィイイイイン!
「ん? なんだ?」
唐突に魔法行使音が響いて、浴場のの入口にふたつの影が出現した。
「センセー! いますかー!?」
「ちょ、ちょっとサキ! ここって男湯じゃありません!?」
現れたのは、私服姿のサキとミナミだった。
「うぉい!? なんでおまえら、男湯に入ってきてんだ!?」
「瞬間移動魔法で先生のいるところに来てみたんです! やっぱりセンセーいるんですよね!? やったぁ、初めての瞬間移動魔法大成功!」
「わ、わかりましたから、さっさと戻りましょう!」
どうやらふたり揃って、瞬間移動魔法を試していたようだ。
これはそこそこ難易度が高いので、いきなり行使できたのはすごいことだ。
「なんだ、おまえら授業が終わったあとも魔法の練習とは偉いな。というか、瞬間ん移動魔法なんてよくいきなり使えたな」
「えへへ♪ 瞬間移動魔法はいつか使いたいなって思ってたんです!」
「そ、それじゃ戻りましょう。いつまでもこんなところにいるわけにはいきせんわ!」
あくまでも会話を続けるサキと一秒でも早く移動しようとするミナミ。
やっぱりサキはマイペースだ。ついでに、とんでもない才能の持ち主だ。
「センセー! せっかくだから背中流しましょうか!? センセーのおかげで、すごい魔法が使えるようになったから、お礼をしたいです!」
しかも、サービス精神旺盛だった。
一方でミナミはますます慌てる。
「ちょ、ちょっとなにを言ってるんですか、サキ!? ここは男湯ですのよ!」
俺も同意だ。どうやらサキには常識が通用しないようだ。
俺もフリーダムがが、それ以上にフリーダムすぎる。
「気持ちだけ受け取っておく。ほら、さっさと別のところに移動しろ。誰か来るかもしれないぞ?」
「えー、せっかく先生のところまで来たのにー! それじゃ、ほかに誰もここに入れないように結界魔法を使えばいいですよね?」
確かに、そういう魔法はある。
というか、魔法に不可能はない。
「いや、それきっちり範囲指定するのはかなり難易度高いぞ?」
「でも、せっかくなので挑戦してみます!」
サキは魔力を高め始める。
そして――。
「結界魔法!」
気合いもろとも叫んで――本当に結界魔法を行使することに成功した。
しかも、綺麗に男湯の暖簾(のれん)から浴場までをカバーしている。
「げっ、すごい精度だな。おまえ、やっぱり魔法の才能ありすぎだろ……」
俺としても、呆れるばかりだ。こんなの昔の俺ですらぶっつけ本番でできるものじゃない。魔法は使えば使うほど技術が上がるが、今日だけでここまでとは。
一方でミナミは戸惑いと悔しさの混じった表情でサキを見ている。
「あなた、上達しすぎですわ……」
「あはは、あたしもビックリだよ。でも、ミナミちゃんだってやってみればすごい魔法使えるんじゃないかなぁ?」
昨日より自分のほうが上だったのに、一日で逆転されてしまえば面白くないだろう。だから、フォローをすることにする。
「そうだぞ。おまえの才能だって負けてない。古典魔法の考え方が染みついちまってるようだが慣れればすごい魔法を使えるようになるはずだ」
魔力量というのは先天的なものなので、サキを超えることは無理かもしれないが。
まぁ、天才タイプのサキと優等生タイプのミナミ、どちらもこれからの世界を守っていく上で大事な存在だ。
「センセー! ともかくこれで今結界内にいるあたしたち以外は入ってこれないですよ! 覚悟を決めてあたしたちに背中を流させてください!」
「って、わたしまで巻き込まないでください!」
並々ならぬ決意を漲らせて、サキはこちらに近づいてくる。
訳がわからんが、どうしても俺の背中を流したいらしい。
「って、あれ? お湯に色がついてる? それに変わった匂いがする?」
そこで、サキは湯が温泉に変化していることに気がついた。
「ああ、俺の魔法で湯を温泉に変えたんだ。これは効能バッチリだぞ。怪我は治るし疲労もとれるし、ついでに体力や魔力の最大値まで上がる」
「なにそれ入りたい!」
サキは瞳を輝かせて、湯船に駆け足で近づいてきた。
「って、アホ、滑るぞ?」
「わきゃあぁああ!?」
言わんこっちゃない。タイルなので、当然、滑りやすい。サキはその場でツルッと足を滑らせて転倒――する寸前に俺が魔法で宙に浮かせた。
「ふわあっ、う、浮いてるっ……!?」
「ああ、俺の魔法だ。子どもじゃないんだから落ち着いて行動しろ。魔法使いは冷静じゃないと務まらないぞ?」
剣士は狂戦士(バーサーカー)みたいにならないとダメなときはあるが、魔法使いにはどこまでも冷静さが求められる。
戦士が炎の心なら、魔法使いは氷の心を育まねばならないのだ。
そういう意味では、サキよりもミナミのほうが魔法使い向きなのだが。
俺は、そのままサキの身体を制御して、しっかりと着地させてやった。
「ありがとうございます、センセー! それじゃ、今度こそ背中を流させてください!」
「なんでそうなる?」
「魔法使いは冷静さが大事なんですよね? なら、センセーもわたしたちに背中を流してもらっても冷静でいられますよね?」
サキは変なところで頑固だった。
初志貫徹するタイプらしい。
「だから、わたしまで巻き込まないでください! わたしはただ瞬間移動魔法の練習をしていただけなんですからっ!」
「でも、ミナミちゃんだって魔法上手くなりたいでしょ? なら、センセーの背中も平気で流せるようじゃないと」
なかなか強引な理屈だ。
だが、どんなことにも動じない心は大事だ。
「まぁ、一理あるな。サキのその度胸というか傍若無人さは戦う上で、かなりアドバンテージがある。戦場では、ビビったほうが負けだ」
これまでの経験からも、それは言えた。
「で、でも、それとこれとはっ……」
それでもミナミは食い下がる。年頃の女子としては、当然だろう。
「ともかく! いつまでも結界が持つかわからないし、センセーには温泉から出てもらいます! でやあっ!」
サキは気合もろとも、魔法を行使した。
先ほど俺がかけたように身体を浮遊させようとしてくる。
「おぉっと!」
それを瞬時に相殺する。
このまま温泉を出る訳にはいかない。当然、下半身になにもつけていないからだ。
「本当に強引だな、おまえは……」
しかも、魔力がものすごい。
相殺が遅れていたら、強制的に湯船から引っ張り上げられるところだった。
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