第2話「特別講師兼特任防衛隊長就任!」

★ ☆ ★


 騎馬隊と兵士、魔法学園の生徒たちとともにクラギ学園に到着した。

 

 小高い丘を背にするようにして尖塔が四つある五階建ての城が聳えており、低地に向かって城下町が広がっている。この場合、学生街といったほうがいいのだろうか。

 

 この城に籠れば魔物の大群が押し寄せてきても大丈夫だろうが、市街戦になると民衆に犠牲が出ることは間違いない。だから、あえて野戦をしていたのだろう。


「あ、あのっ……! さっきは回復していただいて、ありがとうございます!」


 ブラブラ歩いていた俺は、生徒たちのいるあたりまで遅れてしまっていた。

 そこで、先ほど戦場で言葉をかわした少女に声をかけられた。


「ああ、礼には及ばない。ええと、名前は?」

「サキです!」

「そうか。かなり奮闘していたみたいだな」


 ボロボロになったローブは激闘を物語っていた。


「うん、すごい必死だった! 城下街にモンスターに侵入してきたら大惨事だもん。あたしたちみたいに戦える人ばかりじゃないし」

「それで、重傷を負ったのか。なかなか闘志のある奴だな」


 見た目はかわいらしい感じなのだが、肝が据わっている。

 魔法使いなのに戦士のようなメンタリティだ。


「ああ、そうだ。どうせなら服も直してやろう。待ってろ」


 俺の辞書に、不可能という文字はない。広範囲復元魔法を使って、サキだけでなくほかの生徒や兵士たちの装備まで修復してやった。


「ついでに、装備のランクも最大限までアップして自動回復やステータス異常への耐性とかエンチャントしといたからな」


「えっ? えぇえーーーっ!? す、すごい! 服が直ってるっ!? それに、豪華になってる!? これってレア装備じゃないの!?」


 サキはグレードアップした自分の装備を見て目を丸くしていた。

 もちろん、ほかの生徒や兵士、姫たちもだ。


 なお、トヨハ姫の装備はさすが王族だけあって、元からいい装備だった。

 それでもさらに強化しておいたが。


「すごい、すごいっ! ナサトって、こんなことまでできちゃうんだ!」

「ああ、こんなこと俺にとっては朝飯前だな。これくらい俺が編み出した魔導理論を使って魔法を構築すれば、すぐにできるようになるぞ?」


 俺が最初にいた世界では魔導書を読んで魔法を使っていた。

 だが、その魔導書は非合理的な古ぼけたものだった。


 そんなものを、魔導省も学園の教師もありがたがっていたのだ。

 だが、俺は独自の魔法理論を打ち立てた。

 端的に言うと、最適化というやつだ。


 俺の場合は一式・二式などといって言霊を短縮しているが、昔の魔法使いは長ったらしく「炎の神がどうしたこうした~」、「風の精霊がなんだかんだ~」と詠唱していたのだ。


 あとは、公式を使わずに数学をやっているようなところもあった。

 それじゃ、時間がかかりすぎる。短縮できるものは、どんどんやったらいい。


 儀礼的なものや形式的なもの、迷信や権威づけを徹底的に取り除くべきというのが俺の主義だ。だから、剣も師匠なんかにつかずに、我流で徹底的に無駄を排した。

 合理的に生きねば、戦いも人生も楽しめない。


「やっぱり、長ったらしい詠唱しながら魔法使ってるのか?」

「えっ? う、うんっ! でも、神様に祈らないと魔法使えないし」

「いや、神に祈らなくても魔法は使えるぞ?」


 俺の返答にサキは目を丸くする。


「えぇえ!? だ、だって神様と契約するからすごい魔法使えるんじゃないの!? 仮に使えても邪法だから十分な力を発揮できないって、先生が……」

「いや、魔法はそんなものと契約しなくてもめちゃくちゃ使えるぞ。俺は実際に独学でここまでの魔法を使えるようになったからな」


 そもそも、最初の俺の人生は貧苦に喘いでいて満足に魔導学園に通えず中退した。

 退学にあたって学園で結んでいた神との契約は強制的に破棄されて初期魔法も使えなくなった。


 だが、俺は家で田畑を耕しながら日々、魔法を研究、剣を研鑽したのだ。

 試行錯誤を繰り返しているうちに、ついに自力で魔法を使えるようになった。

 ついでに、剣も極めた。


 そして、世界が危機に陥ったとき――学園の連中は、教師も含めて全滅した。

 一方で、独学で魔法と剣を極めた俺は生き残り無双して世界を救ったのだ。


「神と契約している限り神を超える魔法は使えない。誰とも契約しないからこそ上限がなくなるわけだ。すごい大変だがな。でも、楽しいぞ?」

「なんという神をも畏れぬ所業なんですの! あなたは間違っていますわ!」


 そこで、サキの隣の銀髪のお嬢様風美少女が怒声を上げた。


「ミ、ミナミちゃんっ」

「あなたの考えは邪道です! それでは魔族の魔法と変わらなくなってしまいます! 一歩間違えば魔王へと至ってしまう道です!」


 こちらに面と向かって思いっきり異を唱えるとは。

 なかなか、骨のある奴だ。気に入った。


「いい心意気だ。だが、もったいないな。この中で最も魔法の才能があるのはサキとおまえだぞ?」


「なっ、なんでそんなことがわかるんですの!?」

「そりゃ、回復魔法とともに分析魔法もかけたからな」


 普通は、同時に別の魔法を使うことはできない。

 だが、古典的な魔導理論に捉らわれなければ、可能なのだ。

 魔法規模にもよるが、俺は同時にいくらでも魔法を使うことができる。


「えっ、うそ? あたし、この中で最も魔法使うの下手なんだけど……」


 俺の言葉にサキは首を傾げていた。

 だが、そんなことはない。


「俺の目に狂いはない。魔力量は、断トツでおまえが一番だ。逆に制御するのが難しくて暴発したり、逆に暴発を抑えようとして威力を発揮できないんだろ?」

「そう! あたし魔力が暴発しがちなの! で、うまく制御しようとすると逆に威力が弱まっちゃって! って、なんで、そんなことまでわかっちゃうの?」


 自分の弱点を正確に言い当てられたサキは驚きの表情を浮かべていた。


「ま、それだけ魔力量があればな。で、ミナミとか言ったか? おまえはかなり修練を積んで技術を高めてきてるな。今の状態状況でも、完璧に魔力を制御できているのがわかる」

「そんなことまでわかるんですの? 確かに、わたしは魔導士の家系ですから幼い頃より修練を積んできました」


 ミナミも戸惑いを隠せないようにこちらを見てきた。

 俺ぐらいのレベルになれば、これくらいすぐにわかる。


「俺が才能開花をさせてやってもいいぞ。せっかくの才能が古典魔法のせいで上限を決められてるのは、もったいなさすぎてな。もちろん、ここにいるみんなもレベルアップさせてやる。希望があれば剣もな」


 俺の言葉に、先頭で馬に乗っていたトヨハも振り向いた。


「あの、それでは……わたくしに剣を教えていただけませんでしょうか?」

「お、姫自ら鍛練を受けるとはいい心がけだな! だが、厳しいぞ? 姫だからって俺は修行に関しては容赦しない」


 ちょっと脅すように言ってみるが、トヨハの意思は強いようだった。


「はい! この国を、そして世界を守るためには、もっと強くあらねばと思っておりました! ぜひ、わたくしのことをみっちりとしごいてくださいませ!」


 どうやら、ただのお姫様ではないらしい。

 気に入った。これなら俺の剣技を徹底的に教えこんでもいい。


「あたしも、お願いします! もっと魔法を上手く使えるようになればもっともっと多くの人を救えるし! あたし強くなりたいです!」


 サキも、気合十分だ。


 ただ、ミナミは迷っているような表情だった。

 ほかの生徒や兵士たちも、戸惑いのほうが大きそうだった。

 まぁ、いきなり現れた俺にに剣や魔法を教わるというのは勇気がいることだろう。


 俺は神と契約して魔法を使っていない。

 つまり、一歩間違えば完全なる『魔』へと至ってしまう道なのだ。

 それは確かにミナミが言っていた通り、魔王へと至る道とも言える。


「ま、無理にとは言わないけどな。教わりたい奴がいたら教える。それだけだ。別に教わらなくても我流でやるのも面白いしな。ただ、古典魔法を延々となぞっていても上限がすぐ来ちまってつまんないだけだと思うぞ」


 俺としては、自分の限界を定めずに自由に魔法を使ってほしいと願うばかりだ。


「ナサトさま、それではクラギ学園の特別講師と特任防衛隊長を引き受けていただけませんでしょうか? この学園は教育機関であるとともに防衛拠点としての役割もあり兵士も駐留していたのです。それに、一般市民も多く生活しています。……王都は西方にあって離れているので、今回も加勢に来るのが遅れてしまいました」


「なるほど、だから騎馬隊だけで急行してきたってわけか。……いいぞ。これからは俺の瞬間移動魔法ですぐに飛んでいってやるから安心しろ。王都の守りも万全だ」


 俺に不可能はない。魔王ですら使えない魔法だって、使うことができる。


「瞬間移動魔法まで使えるなんて、異常(チート)すぎますわ……」


 ミナミは、呆然と呟いていた。

 魔術師の家系とはいっても、身近に高度な魔法を使える者がいなかったのだろう。

 古典魔法を使っているうちは無理もないが。


「ま、気が向いたら言ってくれ。本人にやる気さえあれば俺は誰にだって魔法も剣も教えてやる」

「わーい! 楽しみー!」


 サキだけは無邪気に無邪気に喜んでいた。


 ……こうして俺は新たな世界で、これまでとは違う楽しみ方をすることにした。

 無双するだけでなく生徒たちを育成してみる。


 これはこれで面白いかもしれない。

 さすがに、毎回、ただひとりで世界を救うのも飽きてきていたところだったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る