第3話「VS校長~超絶技巧鬼畜難易度セクシーダンス~」

☆ ☆ ☆


「というわけで、今日から俺がおまえたちを鍛える。まず、やることは神との契約の破棄。古典魔法を捨てて、俺の編み出した最前線魔法で戦う術を教える」


 前夜は学園に用意された部屋で食事を取って、ぐっすり眠った。で、今日はさっそく講師としての任務を果たそうと教室で授業を開始しようとした俺だったが――。


「待てぇい! 認めん、認めんぞーっ! 素性もわからぬ少年に学園の生徒たちの指導を任せるとは姫様はなにを考えておるのだ! しかも、いきなり神との契約を破棄とは貴様なにを考えておるのだーーー!」


 いきなりハゲ頭を真っ赤にしたおっさんがやってきた。黒いローブを纏っているので魔法使いらしい。あとは、なんか偉そうな人っぽいオーラを放っている。


「「「校長先生っ!?」」」


 最前列、教壇の真ん前にはサキとミナミが座っていた。

 仲よく同時に驚きの声を上げる。


「なんだ、このタコみたいなおっさんが校長なのか?」

「ごるぁ! わしはタコではない。わたしにはガウンという名がある! この学園の生徒を預かる身として認めんぞっ! 先の大戦で武名を馳せたわしと闘って勝ってみせろ! それなら認めてやる!」


 話がわからないようで、わかるようなおっさんだった。

 つまり、戦って俺が正しいことを証明すればいいだけだ。


「じゃ、校庭で戦えばいいか? つまり、勝てばいいんだろ?」

「ふん、いいだろう。報告では三千もの魔物を倒したというが、どうせ雑魚ばかりだったのだろう。わしも腹を壊しておらねば戦場で活躍し、おまえのような身元不詳の魔剣使いに手を借りることなどなかったものを」


 体調不良くらい魔法でいくらでも治せるものなんだが。

 この国の魔法は、やはりかなり遅れているのではないだろうか。


「ま、いいや。じゃ、みんなも校庭へ移動してくれ」


 突然の校長乱入に戸惑いつつも、生徒たちは俺の指示に素直に従ってくれた。

 やはり昨日、圧倒的な力を見せつけているので物分かりがいい。


 ともあれ、校庭。


「ぐわはははぁっ! 血が滾る! 肉が踊る! 伝説の薬草(エリクサー)で腹痛から完全回復したわしは、今、絶好調である!」


 伝説の薬草を使わないと回復できない腹痛って、いったいどんなものを食べたのか気になるが、今は戦いに集中しよう。

 論より証拠。生徒たちにもいい勉強になる。


「ま、いいや。じゃ、武器は木剣。魔法はなんでもオッケーでいいか?」

「おう! ぐはは、手加減してやらんぞ!」


 こんな粗暴な戦闘狂みたいなおっさんが校長とは。

 でも、話が長い説教好きのおっさんよりバトルが好きなおっさんのほうがいい。


「それじゃ、始めるか。俺はいつでもいいぞ」


 木剣で肩をトントン叩きながら、校長に告げる。


「生意気な小僧だ。すぐにその性根を叩き直してやる! 教育的指導だ!」


 校長は木剣を正眼に構える。ちゃんと師について習った剣術を感じる。

 腕の筋肉もかなりのものだ。やはり、ただのおっさんではない。


「ぬああああああああああ!」


 絶叫しながら、思いっきり木剣を振りかぶって駆けてくる。

 迫力だけは、すごい。だが、それでは俺は倒せない。


「くらぇえええええええい!」


 別に真正面からぶつかってやる義理はない。

 木剣が思いっきり上段から振り下ろされたが、ヒョイッと横に避ける。


「舐めるなぁ!」


 しかし、筋肉を躍動させて、すぐに横薙ぎの二撃目を放ってきた。


「おぉっ、意外とやるな」


 木剣で、その斬撃を受けとめる。

 俺も、つい一割ぐらいの力を出してしまった。


「くぬぅうううう!」


 受け止めた俺の木刀を力で圧倒しようとするが、それは無理というものだ。


「よっと」


 ちょっと二割ほどの力を出して、木刀を押し返す。


「ぬわぁああーーーーー!?」


 それだけで校長は吹っ飛んでいった。


「おっと、やりすぎたか」


 このまま地面に激突したら、怪我をしてしまう。なので、空中浮遊の魔法を応用しておっさん校長の肉体をコントロールして、無事に着地させた。


「な、なんだ、今のはぁ!? むぅう、訳がわからぬぞ!」


 校長は驚いているが周りの生徒たちも唖然としていた。

 だが、こんなのまだ序の口だ。こんなことで驚いてもらっては困る。


「おっさんの剣の実力はわかった。次は、魔法だ。魔法学園の校長なら魔法のほうが使えるんだろ?」

「当然である! しかし、わしの全力魔法を少年に叩きこむのは、さすがに大人げないと感じる」

「いや、無問題だ。どんな魔法でも相殺してやる。おっさんの魔力なんかと比べ物にならないほど俺の魔力は上だからな。楽勝、楽勝」


 事実を冷静に告げたのだが、校長の頭にビキッと血管が浮かんだ。


「貴様ぁ! 校長であるわたしを愚弄するかぁ! ならば、見せてやる! ミヤーオ国の至宝と呼ばれたわしの魔法を!」


 ハゲ頭に血管をビキビキと浮かばせるとともに校長の魔力が急激に上がった。

 顔もタコのように赤くなっていった。


「わーっ!? 校長先生、落ち着いてーっ!」

「あなた校長先生に対してなんという無礼な態度をとるんですの!?」


 サキやミナミも慌てているし、生徒の中には校庭の隅に逃げる者までいた。

 そんな中、校長は詠唱を始める。


「天の怒りよ! 地の叫びよ! 海の轟(とどろき)よ! 我の声に応えよ――!」


 まずは呼びかけるところから始めるらしい。ご苦労なことだ。

 もうこれだけで飽きたので、俺は学園の風景や生徒たちを眺める。


「ナサトーーー! 逃げてーーー!」

「逃げてください! 校長先生の魔法は本当にすごいんですのよ!」


 サキとミナミが声を揃えて、俺に逃げるように言う。

 ……やれやれ、俺のすごい魔法を見ていたのに信用がないな。


 その間にも校長の詠唱は続き、やっとのことで完成したらしい。

 実戦なら、この間に敵に攻撃されて終わりだろう。


「我が祈りに応えたまえ! 滅せよ! 悉(ことごと)く焼き尽くせ! 煉獄より生まれし灼熱の業火よぉおーーーーーー!」

「おおっ、思ったより、すごいのが来たな」


 大規模かつ強烈な炎の咢(あぎと)が俺に向かって襲いかかってくる。

 だが、俺が窮地に陥ることなどない。


「防御魔法、二式」


 広範囲防御用の二式を発動する。


 俺ひとりなら急速防御用の一式でいいのだが、俺の後方には倉庫らしきものがある。燃えちゃうのは、もったいない。


 なお、最強守備力を誇る三式もあるが、それを出すほどではない。

 俺の展開した青白いバリアが、おっさんの炎を完全に防ぎきる。


「なぬぅうううう!? わしの灼熱業火がぁーーー!?」


 あんぐりと口を開けて驚愕するおっさん。

 次から次へと表情が変わって、もはや顔芸レベルだった。


「こっちの魔法も見せてやりたいが、さすがにおっさんに怪我させるのは悪いしな。……えーと、これならいいか。空中浮遊魔法」


 俺はおっさんに向けて、人差し指を向けて浮遊魔法を発動。


「ぬあっ!? な、なんだ、なぜわしの体が宙に!?」


 自由を奪われたおっさんは、そのまま空中に上がっていく。


 この魔法は自分を浮遊させることができるが、相手を自由自在に動かすこともできるのだ。


「というわけで、おっさんには俺の操り人形になってもらう。……いくぞ、俺が暇なときに考案したダンスを踊ってもらおうか!」


 俺はおっさんを操ってアイドルグループを想定したダンスを披露させる。


「ぬほおぉおおぉおおおおう!」


 おっさんは筋肉を躍動させながら俺の考案したアイドルダンスを熱演。


「わー! こ、校長先生がっ!」

「な、なんなんですの!? あの可愛らしいダンスはっ!?」


 サキとナナミはさらに驚きの声を上げるばかりだった。


「よし、三番まで踊ってもらうからな!」


 さらにセクシーさを増す二番と難易度が鬼畜レベルになる三番も、おっさんに完全に演じさせる。細かい動きも妥協しない。


「ぬほぉおおおおおおおう!? なんじゃこりゃぁああああーーーーー! やめろっ、こんな生徒おうたちの前でぇえーーーーー!」


 だが、当の生徒たちは――、


「あはは、校長先生、すごい、すごーいっ!」

「な、なんなんですの、この超絶技巧ダンスは……わたし、少々ダンスを嗜(たしな)んでますから、この難易度の鬼畜さはよくわかりますわ!」

「校長先生すげーーー!」

「やだ校長先生かわいー!」


 ――大いに盛り上がっていた。


「……よし、終了。おっさん、ご苦労さん」

「うおっ……!? ぬ、ぬぅうう……わしが、完全に自由を奪われてしまうとは……」


 地面に降ろされたおっさん校長は、悔しげに呻いた。


 基本的には相手の十倍以上の魔力がないと、完全に相手を傀儡(くぐつ)にすることはできない。


 しかも、超絶技巧のダンスを踊らせたのだ。

 これで、魔法の実力はおっさんにも生徒たちにもわかっただろう。


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