56.閉塞


今、大きな揺れは治っているが、小さな揺れは続いている。

カタカタと物が鳴り、壊れていくいる音は周囲の不安を掻き立てていく。



「…っ」


「さぁ、皆様お早く……!!陛下、私に鍵を…!」


「あ、あぁ…」



国王から聖女の間の扉の鍵を受け取ると、鎖と南京錠を掴んでドアを開く。

そして、国王達を聖女の間へと促した。



「致し方ない…!皆、中に入ろう!!」 



国王の言葉と共に、我先に聖女の間に入るカーティスや宰相達。



「…どけっ!」


「おいっ!押すんじゃない!私が先だ」


「私が一番に入るっ!早くそこを退け!!!」


「無礼者めがッ!!」



目の前で自分だけは助かろうと醜い争いが繰り広げられている。


(踏み込め……!!地獄へと)


笑っている事にも気付かずに次々と中へ入り込んでいく。



「皆様、大丈夫ですか…?」


「今の揺れは本当に女神様が!?」


「えぇ……私は一度外に出て、皆様を御守りする為に女神様に頼んでみます」


「分かった…!頼むぞ、サラ!」



三文芝居にあっさりと騙されて、踊らされる国王達に笑いが込み上げてくる。

命の危機に晒されれば、自分を守る為に浅慮になっていく。

以前の自分のように…。


アンジェリカやカーティスも平然と騙される姿を、心の中で嘲笑いながら見ていたのだろうか。


そんな時、カーティスが焦った様子で声をかける。



「サラ、君も一緒に此処に居てくれ!!」


「カーティス殿下…!私のことはいいのです」


「……!」


「カーティス殿下がこの部屋に居てくれるだけで……私は」


「っサラ、本当にありがとう…!」



一人で盛り上がっているカーティスを躱しながら、部屋を見渡してアンジェリカの姿を探す。

扉の奥に雪崩れ込むように意識を失い倒れているアンジェリカを見つけてから足を掴んでズルズルと魔法陣の上へと運んでいく。


そんな時、再び激しく地面が揺れる。


皆、大きくなる揺れに怯えており、何をしようと気にもならないのだろう。

アンジェリカを動かした理由を、誰にも問い詰められることは無かった。



「さぁ…純白の聖女様を取り囲むように立っていて下さい」



部屋の魔法陣へと踏み込んだ後に目を閉じて、祈るフリをする。

周囲にはバレないように静かに聖女の力を魔法陣に少しだけ送り込んだ。


全員、部屋の魔法陣の上に立ったのを確認してから部屋から出て鍵を閉める。

聖女が逃げ出さないように、厳重に掛かっている鎖と南京錠を思いきり握りしめた。


(本当、最低だわ……)


鍵がしっかりと掛かっているのを確認してから、片手を高く上げる。

すると立っていられない程の揺れがピタリと止まる。


ヨムドイトはどこで見ているか知らないが、しっかりと合図に合わせて動いてくれているようだ。


ーードンドンドンッ!!


暫くすると、部屋の内側からドアを叩く音が聞こえる。

小窓から覗くと、予想通り魔法陣が光出していた。

そして、いつまで待っても注ぎ込まれない魔力に痺れを切らしたのか、力を求めて動き出したようだ。


ヨムドイトと大結界の魔法陣について話した事を思い出していた。



「サラ、大結界の魔法陣はどんな模様だった?この中にあるか?」


「多分コレかしら…?でも、こっちの魔法陣にも近いような気がするわ」


「ハッ……小賢しい女神が考えそうな事だ」



ヨムドイトは「忌々しい奴め」と吐き出した。


ずっと気になっていたことがあった。

何故、魔法陣はサラだけを引き込んだのか。

魔法陣のすぐ側に居たアンジェリカに魔法陣が反応しなかった理由は何なのか。



「アンジェリカだって魔法陣に触れていたのよ?私の手の甲を足で踏んだ時に…。けれど魔法陣は私だけを引き摺り込んだの」


「それはサラ一人の魔力で闇の宝玉が満たされたからだ。そう考えると、やはり異世界人の魔力は計り知れないな」


「……」


「力が足りなければ、闇の宝玉は腹が満たされるまで動き続けるだろうな」


「ねぇ、魔力ってライナス王国の人達も持っているんでしょう?」


「あぁ…異世界人よりはずっと少ないがな」


「ふふ、その答えが聞けただけで十分だわ」


「部屋に閉じ込める気か?」


「そうよ……誰も逃さないようにね」



少しだけ聖女の力を注ぎ込んだ為に、魔法陣の中にある闇の宝玉が魔力を求めて動き出したようだった。

魔法陣から這い出る手は、やはり一番魔力が高いアンジェリカを選んだ。


気絶したアンジェリカの足を掴んで、魔法陣の真ん中へとズルズルと引き摺っていく。


(これが、抜け出せなかった理由ね)


何重にも張られた魔法陣によって縛り付けられている闇の力が腹を空かせて溢れ出ていく。

貪欲に力を求めて部屋にあるもの全てを飲み込もうと蠢いているのだ。

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