49.必要
部屋へと戻り、後ろ手で鍵を閉める。
面倒ではあるがヨムドイトに力を注がなければならない。
それから今までの経緯を話すと面白そうに笑っていた。
「もうすぐ我の出番か」と指をポキポキと鳴らしてから伸びをする。
「あぁ…愉快だな」
「本当にね」
「上手くやってるようだな、サラ」
「えぇ、お陰様で……手伝ってくれたのね」
「気が向いたからな」
「一応、御礼を言っておくわ。良いものが見られたから」
「フフッ、そうか。この国を破壊するのが待ち遠しいなぁ?サラ」
「……そうね」
やはりヨムドイトがアンジェリカに少しだけ手を加えたようだ。
気を抜けない状況ではあるが、上手く下地を作る事が出来た。
「儀式はいつだ?」
「……五日後よ」
「そうか、なかなかゆっくり出来ていい日々だったな」
「それは何よりだわ」
「帰ればリュカが仕事をしろと煩いだろうしな」
ヨムドイトはそう言うと、ベッドにゴロリと横たわった。
どんな姿をしていても、どんな格好していても滲み出ているオーラは流石といったところだろうか。
妖しく笑う姿に自然と目を惹きつけられる。
「おい、次はどうするのだ」
「牢に入れられた純白の聖女様のお世話をするの…楽しそうでしょう?」
「それはまた楽しく甚振れそうだな」
上半身を起こしてからサイドテーブルに置いてあるワインの瓶とグラスに手を伸ばす。
クルクルとワインをまわしながらグラスを傾けるヨムドイトを見て顔を歪めて見ていた。
「ん…?ちゃんとバレないようにしているから安心しろ」
「あまり動き回るなって言ったでしょう?」
「我は大人しくしていたぞ」
「……」
「なぁ?プライン」
「確かに魔王様はこの部屋から出ていません‥」
プラインの困惑した様子を見る限り、ヨムドイトは本当にこの部屋から出ていない。
(……何を考えているの)
邪魔にならなければヨムドイトが何をしてようと構わない。
けれど、何処で何をしているか分からないのは不快である。
溜息を吐いた。
「ヨム、それを何処で手に入れたの?」
「少しばかり使えそうな女を誑かしてな」
「……ふーん」
「案ずるな、ちゃんと上手くしている」
「……」
「我もキチンとサラに協力しているではないか」
「そうね」
「サラ、どうしたのだ?」
復讐に関係ないところでヨムドイトが何をしようと構わない。
以前のカーティスの時のように邪魔している訳ではない。
その邪魔も結果的にはいい方向に向かったので文句も言えないが。
込み上げる激情を押さえ込んだまま踵を返す。
「少し出てくるわ……プライン、後はお願いね」
「サラ様!?戻ってきたばかりなのに少し休んだほうが!」
「おい、サラ…!」
バタンと扉が大きな音を立てて閉まる。
ヨムドイトは首を傾げる。
「……おい、プライン」
「……」
「サラは何を怒っている…?」
「魔王様ともあろうお方が何をしているんですかッ!!サラ様が可哀想です!」
頭の上にハテナを浮かべるヨムドイトにプラインは溜息を吐いた。
少しはヨムドイトに心を開きつつあるのではと思っていた矢先のコレである。
すべてを惹きつけて惑わす魔王らしいといえば、魔王らしいのだが。
「サラ様には王子に触れるなと言っておいて、ご自分は女性とベタベタと…!」
「あぁ、その事か」
「それを自らサラ様に話すなんて、魔王様は無神経過ぎますよ!?」
「…………必要な事だったからな」
「必要な事…?それって何ですか??」
「まぁ…それは後になれば分かる」
「でも、折角サラ様と仲良くなるチャンスをふいにするなんて」
「あー…毎晩据え膳なもんで発散も兼ねてな」
「………はぁ」
同じ部屋で休んでいる為、ヨムトイドは毎晩サラに手を出したいのを我慢している。
同じ男として、その気持ちは分からなくはないが其処は自重すべき所ではないのだろうか。
ヨムドイトの近くにずっと居たが、女性を部屋に連れ込んだ様子はない。
勿論ワインなど、プラインが運ばなければ手に入らない筈なのに。
(サラ様……)
それにヨムドイトが女性と居た事がサラの癪に触ったらしい。
以前ならば無視か、気にも留めなかったサラがヨムドイトの事を意識し始めている。
ヨムドイトの女性関係を見て怒ると言う事は…
「……ふむ、状況は悪くはないな」
「どうみても魔王様が悪いですよ?」
「何故だ?サラは我を気にかけている。進歩だろう?」
「そういう回りくどい真似ばかりしていると本当に嫌われちゃいますよ?時にはストレートな愛情表現も大切だってビスが…!」
「サラの願いを叶え、挽回するから大丈夫だ」
「挽回出来ればいいですけどね」
「……………」
「あと魔王様の首と胸元に沢山、虫に刺された跡がついてますよ?リュカ様に渡された薬があるんですが、かなり沁みるけどよく効くみたいですよ?」
「やめておく」
「悪い虫だと困りますから、痒くなったら言って下さいね?」
「………………分かった」
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