最終章 終焉

48.陽動


カーティスは偽りなく国王に事実を伝えた。

アンジェリカを怒らせた原因は自分にある事。

サラ自身は何も関係ないという事も。


国王は眉間に皺を寄せると、一言「余計なことをしおって…」と言っただけだった。

そしてカーティスの反省した様子を見て、あろうことか息子が成長したと喜んでいた。


(信じられない…)



「二度とこのような面倒な事を起こすなよ」


「はい、父上…!けれどサラのお陰で過ちを犯す前に気付く事ができたのです」


「ふむ…」


「サラが居なければ僕の未来は無かったかもしれない!!」


「………」


「そうか…!サラ、これからもカーティスを宜しく頼む」


「……かしこまりました」



そして国王が去った後にカーティスの傷ついた顔を治す。


「貴方の罪は許されました」と言うと、涙を溜めながら喜び、跪いたのだった。


それからあれ程煩く纏わりついていたのに、それをしなくなった。

熱い視線を感じる事もなく崇め始めたのだ。


(駒が増えた……カーティスが更に使い易くなって何よりだわ)




ーーーそして次の日




「純白の聖女アンジェリカは大結界の儀式まで地下牢で大人しくしてもらう事になった」



国王の言葉にサラは静かに目を閉じた。



「……そうなのですね」


「少々気性が荒いのでな、仕方なくだ」


「それはとても残念ですね。純白の聖女様に一体何があったのでしょう」


「分からぬ…聖女が王太子に手を上げるなど前代未聞だ。まったく面倒なことになった」



それを此方が仕込んでいるとも知らずに、平然と国王は言った。


アンジェリカは王太子に暴行を働いた罪で牢に入れられた。

暴れて叫び続ける為、どうする事も出来なかったからだそうだ。


要は儀式まで醜聞を隠すためと、余計な事を言われるのは困るからなのだろう。



「侯爵にはデリケートな時期だからとでも言って誤魔化しておけ」


「侯爵から結婚式の日取りについて手紙が届いております」


「その件は放っておいてもよいだろう…どうせ白紙になるのだから」


「はっ!」



宰相や文官が返事をしてから去っていく。


多少の誤差はあるものの、今のところ全てが上手くいっている。

次のステップに移行する為に動かなければならない。



「陛下、儀式の前にお伝えしたい事が…」


「なんだ…?」


「女神様が私に教えて下さったことがあるのですが」


「申してみよ」



国王を見据えながら、口を開いた。



「"力なき者は大結界の贄になれず"……と。」


「……ッ!!」


「陛下はその意味をご存知でしょうか…?」


「いや……」


「私には女神様が何を伝えたいのか分からないのです」


「……」



明らかに動揺している国王はサッと目を逸らす。

穏やかな笑みを浮かべながら国王に問いただす。



「陛下ならば何かご存知かと思い尋ねてみたのですが…」


「…っ」


「"贄"とは、何のことなのでしょう?」


「……さぁな、儂にも分からぬ」


「大結界を張る際に、何も起きなければいいですね」


「そ、そうだな」



今の発言で、国王がどう動くかが鍵となってくる。


女神の言う通りにして、力のあるアンジェリカを大結界を張る為に使うのか。

それとも力の無いと分かっていても異世界人であるサラを贄にするのか。

アンジェリカと共に聖女の間に押し込むか。


何パターンもある選択肢から国王の反応を見ながら、ある程度の答えを導かなければならない。


(国王はカーティス程、単純でも馬鹿でもない……果たして、どこまで女神の言葉を信じるかしら)


恐らく国王はアンジェリカが大結界の秘密を知っているとは思っていない。

命と引き換えに結界を張らされる事を知っているアンジェリカは最後まで抵抗を続けるだろう。


思い返すと聖女の力を注ぐのを合図に魔法陣は発動する。

足りない分を補おうとして聖女を飲み込んでいるのだとしたら、事実を知っているアンジェリカを無理矢理従わせたままだと魔法陣が発動するかは分からない。


(部屋に戻ってから、ゆっくりと考えましょう)


国王は「少し考える時間が欲しい」と言って去っていった。

その姿を見送って部屋へと戻った。


(………終焉へのカウントダウンは始まった)



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