10.優位



焦った様子を見せる国王や宰相。

異世界から召喚された少女は皆、強い力を持っている筈なのだ。

そこに例外はなかった。


そして力が無いサラは、大結界を張るのに役に立たないことは明白だ。

けれど浅慮な女神は、国を守る為にその力を奪い取った。


大結界の仕組みを知らない人々は、聖女としての力が強いアンジェリカに期待が集中する。

聖女の力があるアンジェリカが大結界を張ると思うからだ。


(……あの女神、頭が弱いのかしら)


どうやらアンジェリカやカーティスは、今の段階ではまだ異世界の聖女の事情を知らない可能性が高い。

困惑している人達は確実に内情を知っている。


わざと残念そうに落ち込んだ様子を見せると、アンジェリカは……。


(口元、笑ってるけど……)


自分が異世界人を超える力を持っていることが嬉しいのだろう。

アンジェリカは困った顔をしながらも、満更でもなさそうである。


こんなに分かり易い表情の変化にも気付けなかったなんて、やはり以前は馬鹿だったのだ。

涙を拭うフリをしながら、皆に囲まれて嬉しそうにしているアンジェリカを見ていた。


聖女は力の強さによって色分けされている。


一番上は『純白の聖女』

二番目が『漆黒の聖女』

三番目は『燕脂の聖女』

そして、本紫、青藍、鈍色と続いていく。


今度はアンジェリカが『純白の聖女』

サラは『鈍色の聖女』となった。


異世界人は問答無用に『純白の聖女』となるはずなのだ。


『鈍色』と判断されるという事は聖女の力は一番力が少ないのだと、嫌味ったらしく神官が教えてくれた。

こんな事は今まで一度もなく異例の事らしい。

『鈍色の聖女』が召喚される事は今までなく、大結界を張れないどころか力が足りない為、ほとんど役に立たないそうだ。



「こんな事、異例ですよ……?異世界人の聖女が低ランクだなんて」


「……」


「でも今回は幸いアンジェリカ様がいらっしゃるから大丈夫でしょう……サラ様は運が良かったですね」


「……そうですね」




(以前、『純白の聖女』だと喜んでいた自分が馬鹿みたいだ)


ーーーまるで、死にゆく為の死装束


それにアンジェリカは漆黒の色を嫌っていたが、ただ分かりやすく色別に分けられているだけで、さして意味はないのだろう。


ある程度、力の強い聖女は『純白』になる。

以前は漆黒だったアンジェリカは、神官達の手により最高ランクの聖女になった訳だ。


そして皆の前で役立たず認定された為、全ての興味と期待はアンジェリカに注がれている。

恐らく事情を知らない人達は、アンジェリカが結界を張ると思っているのだろう。


今ならサラから目が逸れている。

動きやすくなって何よりだ。


(先ずは、どう動こうかしら……)


チラリとアンジェリカを見る。

アンジェリカは以前の自分と同じように大量の侍女や護衛がつけられるようだ。

王太子のカーティスもアンジェリカに気に入られようと必死だった。

やはり力の大きさによって対応は変わるようだ。

それはもう、分かり易いほどに…。


サラの元には誰一人、居ない。


(こうやって冷静に見てると面白いものね……笑っちゃいそう)



「……サラ様、大丈夫ですか?」


「え……?」


「あの、嬉しそうに見えたので……ごめんなさい。そんな訳ないのに…」



振り向くとそこには、同じくらいの年の青年が立っていた。

綺麗な金色の瞳が歪む唇を映し出す。


表情に出てしまっていたのだろうか。

急いで頬を押さえた。



「貴方、名前は……?」


「……サラ様のお世話をさせて頂きます、プラインです」


「そう……宜しくね、プライン」



(侍女じゃなくて、男が付くなんて変だわ)


プラインを見ていると、オロオロしたプラインはスッ……と視線を逸らした。


募る不信感。

すると嬉しそうなアンジェリカが優雅に歩いてくる。

急いで目を伏せて、悲しんでいる表情を作る。



「いきなりこんな事になって……サラ様は大丈夫か心配になってしまって」


「はい、私は大丈夫です……!皆さんがアンジェリカ様を必要としているんですね。すごいです」


「でもサラ様は……」


「私は役に立たないみたいですから……」



わざとらしく首を振って困ったように笑って見せた。

まだ心が綺麗で、良い子で、馬鹿でいなくちゃいけないのだから。

プラインを見て、自分との扱いの差が分かったのだろう。

同情するフリをして、自分が優位に立っている事を喜んでいるようだ。


それに以前とは真逆で、ライナス王国の人達は冷めた目と態度で此方を見ていた。



「私、邪魔みたいなので……それに少し気持ちを整理させてもらってもいいですか?」


「……サラ様」


「国のために……頑張って下さいね、アンジェリカ様」

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