11.アンジェリカside
カールソン侯爵家の一人娘、アンジェリカ。
忙しい父親とわたくしに興味がない母親がくれるのは、お金とモノだけだった。
わたくしは欲しいものは全部手に入れてきた。
手に入らないものは無理矢理自分のものにする事で心の隙間を埋めていた。
人の大切なモノを奪えば、心が満たされるような気がした。
それでも父と母はわたくしを咎める事はない。
いつの間にか、人を踏みにじる快感を覚えた。
屋敷の人間達や令嬢達からも恐れられていた。
妬む声は最高のスパイスだ。
それにわたくしは皆が羨む美貌を持っていた。
落とせない男はいなかった。
どんな令息でもわたくしを宝物のように扱い媚びるのだ。
表向きは取り繕う術に長けていた。
心の中でどう思っているのか、馬鹿な奴等には到底理解出来ないだろう。
だが、次第に退屈を感じていた。
(どうすればいい……どうすればわたくしは満たされるの?)
そんな時だった。
ーーーライナス王国の『聖女』として選ばれたのだ。
それを聞いて笑みを浮かべた。
女神ライナスですら味方をしている。
それに暫くは退屈しなくて済みそうだ。
今日は異世界から聖女が呼び出されるのと共に、聖女としてのランクも決まる。
(純白の聖女以外、わたくしには似合わないわ…!)
カーティスと共に異世界から来た聖女を迎えに行った。
次に狙うのは王妃の座。
カーティスに狙いを定めて、優しく清純な女を演じる。
(ふーん、まぁまぁだけど大した事ないわね)
神官が前に立ち、二人の額に手を当てる。
「アンジェリカ様の聖女としての力は素晴らしいです……!」
「おぉ……さすが女神に選ばれたライナス王国の聖女だ」
「恐れ入りますわ」
「サラ様は、その……」
神官がサラの前で口籠る。
聖女は力の強さによって色分けされていた。
わたくしは聖女の中でも一番、力のある『純白の聖女』
サラは聖女の中でも一番、力が劣る『鈍色の聖女』となった。
(……信じられないッ!わたくしが、あの"異世界人"よりも力が上なの!?)
今までにない高揚感を味わっていた。
「……アンジェリカ様、どうぞこちらへ」
「アンジェリカ嬢……僕の手を」
「アンジェリカ様は素晴らしいお力が……っ」
王太子であるカーティス、国の要人達が群がり、期待を寄せて、全てを褒め称えた。
(夢みたい……!最高の気分だわッ!)
ふと、放置されて悲痛に歪む顔でも見てやろうと、サラの元へと向かった。
「サラ様……」
「私……聖女の力があまりないみたいですね」
サラが落ち込んだ様子で言った。
その手は微かに震えているように思えた。
そんなサラを見て目を見開いた。
こんなにも気持ち良い優越感は初めてだった。
「落ち込まないで、サラ様……きっと何かの間違いよ」
異世界人の聖女は国を救うような強い力を必ず持っていると言われているが召喚されたのは無能な聖女。
もうサラは元の世界にも帰る事すらできない。
口元を押さえながら笑いそうになるのを必死で堪えていた。
おかしくて堪らなかった。
(なんて惨めなの…………!)
ライナス王国の人々は、サラの存在など眼中にないようだった。
周囲の目もあり、上辺だけはサラを心配したように見せていた。
サラに何かを言っていた神官ですら、此方に来て媚を売る。
無能な聖女に声を掛けるものは誰一人いない。
サラはポツンと佇み涙を拭っている。
(アハハハッ……異世界人が一人で戸惑ってるわ!話し掛けてやりましょう!)
「いきなりこんな事になって…サラ様は大丈夫か心配になってしまって」
「はい、私は大丈夫です……!皆さんがアンジェリカ様を必要としているんですね。すごいです」
「でもサラ様は……」
「私は役に立たないみたいですから……」
(わたくしにはこんな大勢の侍女に護衛が居るのに、サラには小汚い男が一人だけだなんて……本当に笑っちゃう)
「私、邪魔みたいなので……少し気持ちを整理する時間をもらってもいいですか?」
「……サラ様」
「国のために……頑張って下さいね、アンジェリカ様」
サラは自分からスッと身を引いた。
きっと此方との扱いを見比べて、自分の立場が分かったのだろう。
(ふふ、なかなか空気が読めるじゃない……!)
サラの味方は、このライナス王国に一人も居ない。
周囲にいる人々は冷めた目でサラを見ている。
無能な聖女と共に働くことになるわたくしを心配する声と褒め称える言葉。
まるで天にも昇る心地だった。
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