12.導き

「サラ様、此方にいらしてください……」



プラインに案内されるがまま歩き出す。

大結界の儀式まで一年間しかない。

このままアンジェリカの側に居ても欲を満たす為に使われるか、馬鹿にする為に毎日呼び出されそうでならない。

それともカーティスと乳繰り合っているところでも見せられるのだろうか。


漆黒の聖女だった頃のアンジェリカとは違った態度になることは確実だろう。

使えない聖女だと奴隷のように扱うかもしれない。


何も知らずに優越に浸るアンジェリカを見ているのも面白そうだが、壊したいものはアンジェリカだけでは無い。


血に濡れた未来に胸を高鳴らせて、笑いを堪えて肩を震わせているのを、泣いているのだと勘違いしたプラインが此方に声を掛ける。



「大丈夫ですか……?」


「……えぇ」


「あの……このまま城に残るのもいいですが、折角なので街に降りて教会に勤めるのはいかがですか?」


「街へ……?」


「……はい、辺境の教会なんですが聖女様が必要らしくて」


「辺境の教会に……?」



(聖女が辺境に行く理由なんて、あまり無い気がするけど……)


プラインは何処かに連れ出そうとしているのだろうか。

異世界に来たばかりで何も知らないからだ。


(まさか……でも、何故?)



「そう……なら国王陛下やカーティス様に、辺境の教会にお世話になってもいいか聞いてきてもいいかしら?」


「!?」



プラインは慌ててサラを引き止める。



「まっ、待ってください……!」


「……?」


「国王陛下からサラ様のお世話は一任されております……っ!それに、これはもう伝えてあるのことなので大丈夫ですからっ!」


「でも……何も言わないで行くのは良くないわ!心配するかもしれないし」


「サラ様のお手を煩わせる訳には……!あの、後で使いを出しますからッ」



プラインは引き止めようと必死なのだろう。

言っている事の辻褄が合っていない。

これはどう見ても無理があるのではないだろうか。


(……この子、大丈夫かしら)


以前、異世界に来たばかりの時は、先程のアンジェリカのように大量の侍女や人が取り囲んでいた。

プラインに会う事はなかった。


もしかして、以前もプラインはこうして来たのだろうか。

どこかに連れ出そうと隙を窺っていたのかもしれない。



「プライン、どうして辺境の教会に聖女が必要なの?」


「はい……あの、困っている人達が沢山居て……その、そこで聖女様が必要なのです」


「ふーん…………そう」


「それに魔族も居て……皆、怯えてて」


「へぇ、魔族が……」


「聖女様しか対応出来ない問題が、辺境にはあるんです……魔族とも、たまに争いになりますし」



大結界を張る大きな理由は魔族の侵入を防ぐ為だ。

聖女が呼び出されたという事は、大結界に綻びが出てくる時期だからだ。


プラインは何の為に聖女を必要としているのだろうか。


仮にもライナス王国の人間だったら聖女の仕事や役割を知っているだろうし、辺境へとわざわざ連れ出したりしないだろう。


(少し探ってみようかしら……)



「プライン……何故、魔族はこの国を襲うの?」


「それは……このライナス王国の結界を張るのに使われている"闇の宝玉"が魔王様のものなのです」


「魔王……?」


「えぇ……魔王様は、その宝玉を取り戻そうとしているんです。世界のバランスを保つ為には魔王様が闇の宝玉を持つ必要があるのですっ!」


「そう……」


「ライナス王国が、光と闇の宝玉を両方使っているせいで他の国々は……!っ、魔王様だって!」


「…………プラインは、魔族について随分と詳しいのね」


「……ッ!!?」



ニコリと笑うとプラインはピクリと肩を震わせた。

どうやらプラインは何らかの形で魔族と繋がりがありそうだ。

明らかに、魔王に肩入れしているような気がしてならない。


(ここは知らないフリをしていた方がいいかもしれないわ)



「何も知らないから助かるわ、プライン……」


「そっ、そう、ですよね……!聖女様は召喚されたばかりですから……何も知らないのは当然ですよね」


「そうね、色々教えて……大事な事だから」

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