13.拉致


まだ純白の聖女だった頃、魔族は悪だと教えられた。

そして、その全てを纏める魔王こそ絶対悪だと…。


プラインの話が本当の事ならば、世界のバランスを崩すライナス王国の方が悪のような気がしてならなかった。


以前は国を救おうという正義感で一杯だった為、他の事に余り目を向けなかった。


何故、大結界が必要なのか。

何故、この国は他の国に比べて豊かなのか。


どうして魔族がこの国と敵対しているのか…。

違う角度から見てみると、こんなにも分かり易い。


仮に人間であるプラインが魔族に肩入れしているとして、目的は何だろうか。


脅されている可能性もある。

只の人攫いの仲間という可能性も否めない。


(けれど待ってるだけじゃ…何も始まらない)


それに攫ってくれるのなら、城から逃げ出す手間が省けて何よりだ。


城では常に誰かが側にいる為、動きにくい。

力のない聖女でも侍女くらいはつくだろう。


無駄に勘のいいアンジェリカに気付かれてしまう可能性もある。

それにアンジェリカやカーティスの側に居続けるのも面倒臭い。

苛々して一年待たずに捻り潰してしまいそうだ。


ライナス王国で味方を作るのも限界があるだろう。


ライナス王国で足掻き続けるよりも、他国……この国に敵意を向けている人達に協力してもらった方が上手く事が進むだろうと考えたのだ。


プラインと出会えたのは、これ以上ないチャンスと捉えた方がいいだろう。


このまま誰かに見つかり、城に居なくてはいけない事になるのだけは避けたかった。


どんな方法でも良い……城の外に出たいのだから。



「分かった…プラインを信じるわ」


「ありがとう、ございます…」



プラインは気まずそうに視線を逸らした。


こうして誰にも何も告げる事なく、プラインについて行く?


城の裏口から外に出て、建物の裏側へ。

どんどん暗がりへと進んでいく。



「……ねぇ、プライン」


「は、はい…!」


「まだ、着かないの…?」


「ごめんなさい……もう、少しですから」



入り組んだ路地裏に入ると、プラインが立ち止まる。


首を傾げて「どうしたの?」と問えば、プラインが泣きそうな顔をして手を上げた。

その瞬間、後ろからバサリと袋のようなものが被せられる。


(……意外と荒っぽいわね。片方の聖女は城で贅沢三昧、もう片方は袋に詰められて拉致だなんて笑える)


一応、何もしないのも申し訳ないので控えめに抵抗をしていた。



「助けて、プラインっ…!」


「チッ……大人しくしろ」


「プライン、良くやったな!行くぞ!!」


「……はい」



やはりプラインには仲間が居たようだ。

誰かに軽々と抱え上げられて運ばれていく。


そして、荷馬車に積み込まれて馬車が動き出すと、叫ぶ間もなく布のようなもので口を塞がれる。


顔に被せられた布は取ってもらったのはいいが、手首と足首をキツく拘束されている為、動けない。

馬車が揺れる度にバランスを崩しそうになる。

口枷をされているので、それを訴える事も出来はしない。


荷馬車の中は薄暗い…けれど街の騒めきを感じていた。


まだ着替えておらず、向こうの世界の制服のままだ。

スカートは短い為、足が露わになっている。


プラインが申し訳なさそうに膝元に布を掛けた。



「サラ様………申し訳ありません」


「プライン、しっかり面倒見ろよ…?俺らと違って、人間はすぐ死ぬからな」


「はい…!」


「今頃、城は大騒ぎだろうな……いい気味だ」


「…そう、かもしれません」


「やっと聖女を捕らえたんだ…!きっと何かが変わるさ」



(俺らと違って、人間は、いい気味……良かった。ただの人攫いじゃなくて)


一人は御者台で馬車を御しており、もう一人はプラインと共に此方を監視している。


ここで、一つの疑問が湧き上がる。


(魔族、よね?……そうだと有難いんだけど)


本で見た魔族の姿とは似ても似つかない。

プラインもそうだが、他の二人もどこからどう見ても人間にしか見えない。


この人達がただの人攫いの場合……少ない力を使って逃げなければならない。


(万が一もあるから、気を抜いてはいけない…)


そっと目を閉じて考えを巡らせていた。

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