14.醜悪
(どうすれば……どうすれば奴らを死ぬほど苦しめられる?)
醜悪な本心が透けて見えてしまえば、見え方は百八十度変化する。
それに、もう少しライナス王国の腐った心根を覗きたかった。
贅に胡座をかいてアンジェリカが此方を見下しているところでも見る事が出来たなら、もっと最高だったのに。
(あぁ………でも、もう十分か)
あの時、魔法陣に飲み込まれながら吐き出されたものがアンジェリカの本当の気持ちだ。
目の前から消えてなくなると分かっていたから、本心を全て曝け出せたのだ。
(……そんなアンジェリカ達を何の疑いもなく信じていたなんて、以前の私って本当に馬鹿よね)
アンジェリカは邪魔者が居なくなって喜んでいる事だろう。
今回は邪魔というよりは馬鹿にする対象だろうか。
そうでなくとも何も知らない人達にとって鈍色の聖女など居ないも同然の扱いなのだ。
国王やカーティス、そして宰相、大臣……恐らく聖女の内情を知る人物達は、困惑したような視線を送っていた。
これで内情を知っている人物をある程度、割り出す事が出来る。
以前、国王達が異世界人を宝物のように扱っていたのは犠牲になる聖女への、せめてもの餞だろうか。
こうして、代々異世界の聖女達が騙されてきたのかと思うと腹立たしくて堪らない。
(……大丈夫よ、皆の分の恨みも憎しみも哀しみも、全部ぜんぶ返してあげるからね)
心が傲慢に肥え太った所を、一気に地面に叩きつける。
あそこに這いつくばらせて、恐怖へ、絶望へと落とし込んでいく。
血だらけの魔法陣の元へ戻るのが待ち遠しい。
(その為だったら、何でもしてやる……)
あの国王やカーティス、アンジェリカをこれからどうやって壇上から引き摺り落とすのかを考え込んでいた時だった。
馬車が乱暴に止まる。
何事かと警戒していると、重たそうに腰を叩く男の姿。
どうやら休憩するようだ。
耳を澄ませて会話を聞こうとした時だった。
「お願いですから、騒がないでくださいね」
膝をついたプラインが、そっと口枷を外した。
「サラ様、お腹空きませんか…?」
小さく首を振ると、プラインは困ったように眉を寄せた。
そして缶詰のようなものを開けると、スプーンを持って口元に運ぶ。
首を背けて、食べる事を拒否した。
得体の知れない食べ物を口にしたくないのもあるが、今は何かを食べられるような気分ではなかった。
この世界に舞い戻って来た時から、腹の奥が憎しみで煮えたぎっており、空腹などまるで感じなかった。
「サラ様……食べてください」
「………」
「……サラ様」
「いらない…」
何度もサラの名を呼ぶプラインをギロリと睨みつける。
プラインはその態度に傷付いたのだろうか。
申し訳なさそうに「ごめんなさい…」と言って、そっと目を伏せる。
プラインの優しさや気遣いが、気持ち悪い程に絡みつく。
「サラ、様……?」
「………」
無意識に歯軋りをすると、プラインは申し訳無さそうに口を開く。
「っ…何も知らない貴女を、利用した事をお許しください」
プラインの言葉にゾワリと鳥肌が立つ。
目を見開いてゆっくりと首を戻しながらプラインを見た。
ゆらゆらと揺れ動く金色の瞳と視線が絡む。
心の底から心配している事が伝わってくる。
その顔を見ていると、何も知らなかった頃の自分を思い出す。
その瞳が、利用された自分の愚かさを映し出す。
以前の自分が鏡のように、目の前にいる。
まるで戒めのようだ。
傷に塩を塗りたくり、言葉では言い表せない痛みを与える。
「フフッ…!!アハ……っ」
けれど、こうして嬲られるのも悪くないのかもしれない。
「…っ」
「ーーーーアハハハッ!!」
一番怖いのは、この気持ちが消え去る事なのだから…。
「お、おい!プラインッ、聖女様は狂っちまったのか!?」
「……っ」
「プライン…!どうにかしろッ!!人間の村が近くにあるんだ!!見つかっちまう!!」
プラインが震える手で口枷を嵌める。
それでも笑い続けた。
三人は戸惑いながらも此方を見ていた。
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