08.戯言


『こ、この国の人々を守るためには異世界人の力が……どうしても必要だったのです』


「……この世界に関係ない私達の命一つで救えるから?確かに便利でいいわね。自分の懐は痛まないもの」


『……っ、別の方法は常に探しているのです!!それに、私の言葉を聞き届けられる程の力を持った聖女がライナス王国では見つからなくて!』


「……貴女がアンジェリカを選んだんでしょう?」


『……っ』


「汚ったない心を持った貴女にそっくりだわ……女神ライナス」


『ッ、それ以上の侮辱は許しません……!神への冒涜ですッ』


「…………貴女がいけないのよ」


『……!』


「守るだけじゃ何も変わらない。戦う術を教えないのは何もしてないのと一緒だわ………!アハハハッ、そうよ!まるで以前の私じゃないっ!」


『…………っ!?』


「どうして気づかなかったのッ!?こんなに簡単な事だったのに!」


『サラ……もう私には貴女の心を癒すことは出来ないかもしれません』


「……は?」


『……国の為に尽くしてくれた貴女の願いを、一つ叶えましょう』


「願い……?」


『決まりなのです。私は、此処に還ってきた聖女達の願いを叶えています』


「……」


『それが……私が出来る唯一の償いです』



女神は祈るように膝を折る。

サラはその姿をじっと見ていた。



「…………異世界から来た聖女達は、何を願ったの?」


『元の世界に帰りたい、と……』


「確かにこんな屑が集まった国の事なんて早く忘れたいものね……それも貴女の力で無理矢理言わせただけでしょうけど」


『………』


「それで、元の世界に帰ったらどうなるの?」


『新しい命を授かり、人生をやり直す事が出来ます!今までの苦しみと恐怖を浄化し、安らぎを与え……』


「あぁ…………凄いわね」


『えぇ!だからサラも……っ』


「殺す為に連れてきて、元の世界で新しい人生をやり直せって……何それ?」


『え……?』


「願いが決まったわ……時を戻して頂戴。私がライナス王国に召喚された時でいいわ」


『……何故わざわざそんな事を』


「勿論、記憶はそのままにしてね」


『……っ!?まさか貴女は』


「簡単でしょう……?違う世界に人を生き返らせられるくらいだもの」


『で、でも……っ』


「国の為に犠牲になった私の願いを、早く叶えて……?」



サラはニッコリと女神に微笑みかける。

しかし決して目は笑ってはいなかった。

仄暗い闇のような瞳は焦った女神を映し出す。



『……っお願いです!約束してください!もう一人の聖女と共に国を守る為にやり直すと!』


「……」


『守ってくれますよね……?』


「なら……私からもお願いしてもいい?」


『……え?』


「………異世界人を、もう二度とライナス王国に召喚しないで下さい」


『……ッ!?』


「その願いを、叶えてくれるの?……女神ライナス」


『そ、れは……』



女神は戸惑っているように見えた。

自分の国を守りたくて必死なのだろう。


異世界人が召喚されなくなれば、簡単には大結界を張る事が出来ない。

何人ものライナス王国の聖女を犠牲にすることになる。


けれど記憶を持ったまま過去に戻れば、大結界を壊す為に動くことは明白だ。

大結界ではなく国すらも……。

どちらの願いも女神にとっては不服だろう。



「このまま生き返らせてくれてもいいわよ?貴女の大切な国に……」


『サ、サラ……それでは国がッ!!』


「ライナス王国を私が持つ全ての力を使って壊すの……とっても素敵でしょう?」


『……ッ』


「………貴女達が私達を蔑ろにした罰よ」


『ーーーッ、神の決まりは絶対です!貴女の記憶をそのままにして過去に戻します…っ!』



どうやら女神は提示した無理な条件を飲み込んでまで、召喚した異世界人の願いを叶えなければならないらしい。



(言ってみるものね……今まで我慢してきたことが馬鹿みたい)



『……その代わり、貴女の強大な力を封じますッ!解けるのは大結界を張る魔法陣の前だけです』


「………」


『サラ、貴女に女神の加護があらんことを!』


「…………悪魔め」


『……ッ!』



ニタリと笑みを浮かべた後、困惑する女神に向けて吐き捨てた。



「ライナス王国に貴女に……破壊と絶望を約束するわ」



その言葉と共に光に包まれた。


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