07.絶望
『あぁ……また異世界から来た少女が犠牲になってしまった』
ブチンと記憶が途絶えた後……ゆっくりと目を開いた。
腹の奥が燃えるように熱い。
目の前で美しい女性が涙を流しながら立っていた。
その姿は神々しく、とても人には見えなかった。
『今回は命を落とさないよう強い力の聖女を送ったのに……少しの歩み寄りで貴女は生き残れたはずなのに』
「………」
頭が割れてしまいそうだった。
もう死んだはずなのに、痛くて痛くて仕方がなかった。
自分の手のひらを見た。
擦り傷でボロボロの腕と所々剥がれた爪、手の甲にはアンジェリカに踏み躙られた傷。
光を失った瞳で涙を静かに流して項垂れていた。
心の中にあるのは、強い憎しみと絶望だけだった。
視線を流すと、その女性と目が合った。
慈愛に満ちたその瞳が、以前の自分と重なった瞬間……。
「ーーーッあぁ゛あぁッ!」
思いきり叫んだ。
喉が擦り切れて血が滲んでも構わなかった。
のたうち回るような憤怒と激情が苦しみとなって体を引き裂くような痛みを与える。
「………ハァ、ハァ、ッう゛ぁぁ゛ぁッ!」
傷だらけの腕で地面を叩いて頭を抱えた。
目の前に立っている女性が止めようとするのを振り払い、声が出なくなるまで叫び続けた。
『………』
「ハァ……!ハァ……」
『気は、済みましたか……?』
「………」
『サラ……?』
「……っ、済むわけ、ないでしょう?」
怒りを滲ませた瞳で、首を傾けた。
唇は強く噛んだ所為で鬱血していた。
目は血走って、掻き乱した髪はボサボサになっていた。
気が狂ってしまいそうだった。
救えると信じていた国に。
甘く愛を囁いた王子に。
平気で裏切った友に。
そして未来は明るいと信じて疑わなかった愚かな自分自身に。
『私は女神ライナス……まさかライナス王国の聖女が貴女を裏切るなんて』
「………」
『しかし、純白の聖女が犠牲になってくれたお陰で国は……』
「………望んでないッ!」
思いきりライナスを睨みつけた。
国の教会で毎日毎日、何度も何度もこの女神に祈りを捧げていた。
国は女神ライナスを守り神とし崇めていたからだ。
「………お前達の国なんてどうでもいい!」
『貴女の祈りはとても美しく綺麗で……!それに今回こそは上手くいく筈だったのです!』
「貴女は悪魔よ……ッ!私達、異世界人を利用して騙して贄にして国を守る悪魔だわッ!」
『………本当にごめんなさい。それに過去の聖女達にも此処できちんと話をして許しを得ていたのです』
「誰も貴女達を許してないわ……!女神だか何だか知らないけれど馬鹿にするのもいい加減にして」
『サラ……』
あの魔法陣にこびり付いた聖女達の末路を知り、憎しみと絶望を纏った。
あの恐怖と苦しみを知るからこそ、ここで叫んでいる。
(………もう、絶対に騙されないわ)
ここに送られた少女達は、この女神に悲しみを無理矢理誤魔化されて、強制的に恐怖を取り除かれて、上手く言いくるめられたに違いない。
そうでなければ辻褄が合わない。
「悪いけど、もう私には貴女の力は通じない……貴女も国も許す気は無いわ」
『なりません!憎しみに囚われてはいけないわ』
「………」
『貴女の抱える憎しみが強すぎて、サラの心に触れられない……どうか心を開いて身を委……』
「何故、貴女が私の心を決めるのよ……?」
『……ッ!?』
「……私は全てを恨み、憎んでいるわ」
『これでは貴女を天国に導けないのです……!』
「は…………?天国?なにそれ……」
『………ぇ』
「私が求めているのは………血に染まった地獄よ」
ふらりと立ち上がった。
(こんな腐った国に、救いなんて必要無い……)
『ーーー聞いて下さい!今回はとても残念な結果になってしまって、それでも貴女は異世界人の中でも凄い力を持っていたのです!まだ戻れます……。サラ、どうか私の言葉を聞いて下さいッ』
「はっ……馬鹿な私に戻れと言うの?」
『……っ』
「犠牲になった少女達は何て言っていたの?関係ない国の為に騙されて、命を使われて、心から許しますと言ったの?」
『そ、れは……』
「本当に……?心から貴女達を許したとでも言うの?」
『そ、それは……』
「…………嘘吐き」
『……っ』
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