第10話 四天王の二次面接

「ええと、要するに……魔王の命令でやってきたと……。あなたは四天王の喪心のフォルカスさんだと……」


「はい!」


 ――とんでもないことになった。


 俺たちの敵は、四天王のフォルカスだった。小柄でかわいい女の子でありながら、精神魔法の達人。さっきまでは隠していたみたいだけど、よく見ると狐耳がついている。


 で、なにがとんでもないことになったのかというと、姉ちゃんが『これだけ凄い能力なら、カルマくんの護衛にピッタリかもしれません! 期待です!』とかなんとか言って、彼女を二次選考に進めたのだ。


 そんなわけで、宮殿の一室へ場所を移動。ちなみにイシュタリオンさんは、めっちゃ不満を抱いている。ルリも召使い一同も警戒している。俺だって警戒している。


 まあ、敗北を認めたあとは、随分としおらしくなった。イシュタリオンさんの強さに完全屈服した上に、尊敬の念を抱いてしまったようだ。まあ、あの強さを見たら無理もないか。かっこいいし。美人だし。


「たしかに、経歴はパッとしないかもしれませんが、やる気だけはあります。どうか御社で働かせてもらえないでしょうか!」


 御社ってなんだよ。会社じゃねえよ。護衛を募集してるんだよ。


「ダメです! 四天王ですよ! こんなかわいい顔しても魔族ですよ!」


 ルリが熱弁する。


「まあまあ、ルリちゃん。話だけでも聞いてあげようではありませんか。志望動機は?」


「はい! 志望動機は、イシュタリオン様の強さに惚れたからです! 迷いのない瞳! 微塵の隙もない剣閃! 戦況を見渡す観察眼! 紛うことなき理想の上司です!」


 狐耳をピコピコとさせながら、志望動機を語るフォルカス。


「ふむふむ。御出身は?」と、面接を続ける姉ちゃん。


「バッジルという山奥の村出身の元人間です! 戦争孤児だったところを、レッドベリルさんに拾ってもらい、魔王様の――いえ、魔王のメイドとして勤めていました。その後、高い魔力を持っていたので、四天王に抜擢。『魔神の果実』を食べて魔族化しました」


 魔神の果実とは、魔界にあるといわれている瘴気を抜群に含んだ果物らしい。食べると、肉体が魔族化し膨大な魔力を手に入れるそうだ。彼女の場合、苦くて吐き出したらしく、狐耳が生えるだけに留まったとか。


「今後はイシュタリオン様のために粉骨砕身働く所存でございます。カルマ様を御守りしろというのなら、この命に代えても御守りします!」


「長所と短所は?」


「長所は精神魔法を使えることです。短所は身体が弱いところです! けど、短所は長所になりうると思います。弱いがゆえに、裏切られても困らない! カルマ様でも、簡単に抑えつけることができますよ!」


 凄いアピール力だな。見事に短所まで売り込んでいる。


「それは強みだな……どうする、カルマ?」


「どうする……じゃないですよ、イシュタリオンさん。いくらなんでも、殺そうとしてきた相手を雇うなんて……」


 イシュタリオンさんまで、食指が動いているみたいだ。俺たちを殺そうとした相手なんだぞ。ルリも質問を投げかける。


「操られた人間は、普段以上の力を発揮しているようでしたが?」


「肉体と魔力のリミッターが外れるので、普段以上のパワーを発揮させることができます!」


「なるほど、我々召使いが敗北しそうな時は、フォルカスさんが操って戦わせてくれるわけですね?」


「可能です。死んでさえいなければ、死ぬまで戦わせることができます!」


「ふむ。実力は問題なし……。術者本人はさほど強くなく、簡単に御することもできる。こうして改心してもいますし……カルマ様、どうしましょう?」


「ルリもかよ! おまえら全員、フォルカスに操られてるんじゃないよな……?」


「操っていません!」

「操られてなどいないぞ」

「操られてませんよ?」

「操られてなどいないのです!」


「操られてる奴ほど『操られてない』って言うから心配なんだが……」


 俺は、じいっとフォルカスを見やる。あどけない少女。外見は完全に人間。むしろ守ってあげたくなるような儚さがある。狐耳もピコピコ動く。


「……とりあえず、帰れ。な?」


「か、帰れません! もし、おめおめと逃げ帰ったら……四天王の筆頭アークルードに殺されてしまいます!」


「アークルード?」


 その名前を繰り返す俺。


「はい……。アークルードは、とても残忍な御方……そして、その魔力は魔王に匹敵するとも言われております」


 レッドベリルは凄まじい魔力と身体能力を持っている。ロットは圧倒的なパワーと不死身の肉体を誇る最強の不死者。しかし、フォルカスは弱い。四天王に抜擢されていたのは『便利』だからだ。しかし、こうして失態を犯してしまえば、無意味で無価値。役立たずとして消されかねない。


「そういうこと……でしたか……」


 姉ちゃんも同情していた。


「絶対に裏切るようなことはしません! 喪心のフォルカスは、つい先刻死にました。これからはカルマ様の下僕! イシュタリオン様の妹として生きていきたいと思います! どうか、御慈悲を!」


 むう。なんだか哀れに思えてきた。俺と同じで、パーティのお荷物。このまま帰ったところで、彼女は命のリストラをさせられてしまう可能性だってある。ほかに、行くところがないわけだしなぁ……。


「なぁ、もし、魔王が『戻ってこい』って言ったらどうする?」


「戻りません! フォルカスはカルマ様の下僕でございます!」


「いや、それはそれでなんか、気まずいんだけど……」


 すると、ルリが提案してくれる。


「カルマ様。試しに雇ってみてはいかがでしょうか? 宮殿から出ないことと、常に誰かが見張っていることを条件にすれば、それほど脅威ではないかと」


「まあ、それなら問題なさそうだけど……」


「お姉ちゃんもいいと思いますよ。納得です」


「まあ、戦力的にはこれ以上の存在はいないしな」


 姉ちゃんもイシュタリオンさんも頷いてしまっていた。


「ありがとうございます!」


 と、そんなわけで、俺の宮殿に頼もしい仲間が増えたのであった――。


「そういえば、カルマ」


「なんですか、イシュタリオンさん」


「今回の私は、よくやったよな?」


「そうですね。かっこよかったです。凄く助かりました」


「じゃあ、褒めてくれ!」


「は……い? あ……え、ええと……じゃあ……」


 俺は、彼女の頭に手を置き、なでなでしてあげる。


「よ、よくがんばったな。え、偉いぞ」


「うむ!」


 イシュタリオンさんは、満足そうに胸を張るのだった。

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