第83話 お姫様、ミミーの場合 〈二〉

 舞踏会なんて大嫌い。たくさんの名のある方々から求婚されて、それをいちいち断らなきゃいけないから、気が重いわ。それに、注目されるのもあまり好きじゃないの。


 でも、あたしはお姫様だから、お姫様としてがんばらなくちゃいけないの。


 ドレッサーの引き出しを開けて、例の手鏡を手に取る。


 あたしは、そこに写るおじさんのことを想像する。きっと、とても不器用な性格で、でもとてもやさしくて、手先が器用。笑顔がとってもキュートなのかもしれない。


 カレンにもらったティアラ。とても繊細でよくできているわ。


 ティアラを指でなぞっているうちに、なぜか涙がこみあげてきた。


「あれ? おかしいわ。どうして涙なんて」


 だけど、胸の奥がきゅっと締め付けられたように痛くて、せつなさがあふれてとまらなくなる。


 あたし、どうしちゃったんだろう? その時、頭の中で白黒の記憶? みたいなものが浮かんで消えた。顔にモザイクがかかっていたけれど、あたしは彼のことをよく知っている。どうして? 会ったこともないのに。


「だれなの?」


 名前すら思い出せないのに、その人の姿がコマ送りのようによみがえってくる。


「会いたい」


 でも、どこにいるのだろう? あたしはお城から外には出られないし、どうすればいいのだろう。


 眠らなくちゃ。あしたは舞踏会なんだから。目の下にクマなんてあったら、お姫様のイメージが台無しだわ。だって、あたしはお姫様なのだから。


 ふうーと息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。あたしがきちんとしていれば、いつかまた会えるかもしれない。その時は――?


 その時は、どうなるのだったかしら?


 つづく

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