第74話 長い夜
思えば、不思議な旅だったな。ヒロユキに首を斬られて、あわてて首をつけたものだから、後ろ前につけちまって。
それから、本当は国王陛下だったイヌワシのワッシャンに連れ去られて空を飛んだ。おれあの時、マジで食われるのかと思ったわ。なつかしいな。
そして、ミミーに出会った。猫耳が不思議に似合う、とてもかわいらしい女性。おれなんかには到底縁のないタイプで。だからこそ戸惑ったものだった。
それから、カレンやマリン、ジョージとも出会って、魔王城へ向かったんだ。
途中、女神様のおかげで、ワイヤーアクセサリーを売って宿代にしたりもしたな。ところで、おれが作ったアクセサリー。本当は魔族だった宝石商のドリー経由で、女神界で人気があるって聞いたけど、あれ、今でも有効かな? 今後、旅が終われば、おれはただのヒーラーに戻る。もし、女神様方が望むのなら、専属でアクセサリーを作ってさしあげたいくらいだ。が、まぁおれの運はそう都合よくできてないだろうから、それはまず無理な話かな?
それから、えっと……。
えっと、ヒロユキが、前世からおれの妨害をしていたことがわかって。しかもその理由がおれを好きだという。そんなのいまだに信じられないが、ゾンビになってなお、おれに執着しているのだから、本当なんだろうな。
そのヒロユキも、おれを裏切ったせいで盗賊の親分と差し違いになり、死んじまった。まさかこの時は、ゾンビになって復活するとは夢にも思ってなかったな。
魔王城では、カレンの馬を亡くしてしまったし、悲しいわかれがつづいた。
女神様が本当はミミーの母親の生まれ変わりだったこと、魔王の魂ごと、魔法陣を封じ込めてくれたおかげで、魔族との戦いは終わった。
けど、この時のおれはまだ、ミミーのことを好きだなんて思ってもなかったのにな。
あのまっすぐで純粋な瞳に見つめられたら、だれだって惚れちまうよな。年甲斐もない。なさけないぜ。
窓の外の月を見上げる。今夜は雲がかかって、まるでおれの心をすかしたみたいだな。しかも三日月か。
ふぅと息を吐き、今の気持ちを思う。どうか、ミミーがこれから先の人生もしあわせでありますように。今はそれしか願えない。
ミミー、愛してる。そのやさしさごと、突き返すのはつらいけど。ごめんな。ふがいないおっさんで。でも、おれはただのおっさんだから、おまえには釣り合わないんだ。だけどもし、ゆるされるのなら、この想いを胸に抱き、これから先も生きて行こう。
夜が、ふけてゆく。
つづく
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