第73話 決断
「さぁ、マローン。そろそろみんなのところに戻ろうか?」
そうして自分がどれだけ長い間、ぼんやりしていたかなんてまったく頭になかった。
ミミーとわかれる。わかれる? その事実を突きつけられて初めて、自分の気持ちの変化に気づいたのだ。
おれは、ミミーのことを好きになってしまっている。だが待て。ミミーはまだ若いし、これからもっと好きな人ができるかもしれない。
その時おれは、正常でいらられるのか? 今ならまだ、あきらめがつく。傷は浅いうちにふさいでおかなければならない。もっと深くえぐられてしまえば、心身を蝕む。
それに、おれなんかがいっしょにいたら、ミミーはしあわせになれない。そんな予感がする。
胸の奥にあるタッパーを二重がさねして、ミミーを好きだという気持ちごと味噌でくるんでふたをしてしまえ。そうすれば、タッパーが裂けないかぎり、この気持ちがバレる心配はない。
「ワッシャン。いや、国王陛下。どうか、ワープで洞窟まで連れて行ってください」
「それでよいのか?」
「はい。今のうちなら、なんとか」
「では、明日、ワープすることとしよう。みなに話をするがよい」
「はっ!!」
おれはまちがっているのだろうか? いや、まちがっていてもいい。自分の気持ちを裏切ろうとも、ミミーにはしあわせになって欲しいんだ。
おれはイヌワシに姿を変えられてしまった国王陛下に深々と頭を下げると、カレンとともに宿屋にもどった。
「もうー!! 遅いよ、マローンっ!!」
「でっ!? ミミー? どうしてこんなに酔ってるんだ?」
べろんべろんじゃないかよ。マリンあたりが止めてやってくれよ。
「だって、ミミーが飲みたいって言うのだもの。しょうがないじゃない。女には、そういう時があるものよ?」
そうなのか? でも、よかった。これで、ワープの件、話しやすくなった。
案の定、テーブルに突っ伏して眠ってしまったミミーに軽い罪悪感を抱きつつ、おれは国王陛下がワープできることを話して聞かせた。
「へぇー? あのイヌワシ、そんなことまでできちゃうんだぁ?」
それはあまりにも開けっぴろげすぎるぞ、マリン。こんなこと、ご本人の前で言ったらいけないんだからなっ。
「でもさ、マローンはそれでいいの?」
ジョージがおれとミミーを交互に見やる。ちっ。ジョージにまで気持ちがもれていたか。
「かまわないさ。さぁ、明日は早いぞ。もう寝よう?」
「ほら、ミミー。ぼくの腕に肩をかけて」
カレンはどこまでも王子様なんだな。すべてをわかった上で、ミミーにやさしくできるんだから。
「マローン、ぼくは遠慮なんてしないよ? この旅が終わったら、ぼくは城の衛兵になる。ミミーをあきらめたくないんだ」
「ああ。カレンはそれでいいと思う」
そして、きっと、その想いは届くはずだ。
「だが、ミミーにもきちんとわかれを言わせてあげるべきだ。そこは、わかっているな?」
「ああ。ミミーがわかってくれるのなら、おれは悪人にだってなれるさ」
そうしてこの夜は、なんとなく眠れずに過ごしていた。
つづく
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