第72話 話し合い
「ぼくの馬はぼくが見るから。いっしょに行こうか、マローン」
ああ、はいはい。たぶんお説教されちまうんだろうな。ええい、この期に及んで怖いものなんてあるかい。おれはヒロユキとワッシャンのご飯をもらって、カレンの後について行く。
ランタンを下げたカレンが、城から連れてきた馬のマズルをなでる。
「よしよし。いい子だな」
「ワッシャン、ヒロユキ。ご飯持ってきたぞ」
「それはありがたい。が、そろそろ生肉にも飽きてきたな。なにか別のものが食べたい」
ワッシャンの無理難題に、おれは口ごもる。いくら中身が国王陛下とは言え、イヌワシに生肉以外のものを食べさせても大丈夫なのだろうか?
迷っていると、横からカレンが生のニンジンを差し出してきた。
「お口に合うかはわかりませんが」
ワッシャンはしばらく考えたのち、ニンジンをひとかじりして、飲み込んだ。
「……やはりまだ、生肉でがまんしておこう。それで? なにがあったのだ?」
おれは、宿での話をワッシャンにした。古代竜のうわさと、ミミーのおれへの熱い思い。すべてを話し終えた頃には、通りすがりの冒険者たちがヒロユキを見てギョッとしているところだった。
「ミミーは、獣人になる前から、ずっとそなたを探していたのじゃぞ」
「たしか、魔法の鏡で探してたって。どうしてそこまでして、おれのことを?」
「前世の記憶が戻ってからは、ずっとそなたのことばかり話しておった。それほど、前世からそなたを追い求めていたのだろう」
どうして? 命を助けたから?
「くわしいことは、本人に聞くしかないが。ミミーの思いは決してふざけたものではないことを理解するといい。そうして、ミミーか、ヒロユキかのどちらかを選ぶといい」
「いや、待って!! ヒロユキとはそういうんじゃないからっ。あ、です」
なんか、調子が狂うな。国王陛下だもんな。今までどれほど無礼だったかを思い知らされる。ミミーだってお姫様なんだ。こんなうす汚ないおれなんかと、釣り合うわけがないんだ。
「ともかく、古代竜に会うしか方法はない。洞窟は遠いのですか?」
「森は抜けた。だが、山の向こう側の洞窟までは時間がかかるだろう」
「なんか、もどかしいな。魔法でワープとかできないんですか?」
おれが聞くと、ワッシャンは軽く首をひねった。
「できるが、そなたはそれでよいのか?」
「できるのっ!? え? でも、それでいいって、なんのことです?」
「旅が終わってしまうということだよ。それはおそらく、ミミーとのわかれにもつながるだろう。だから、それでもいいのかと聞いた」
わかれ? だってミミーはお姫様だし、おれはただのヒーラーで、だからわかれるのは当然なわけで。なのに、なんでだろう? 胸の奥がざわつく。ミミーと離れ離れになることなんて、城を出た時に覚悟していたはずなのに……。
「少し、考えるがよい。カレン、今の話はみなにはだまっておいてくれたまえ」
「承知いたしました」
カレンの上品なお辞儀が目の端に映るけど、頭の中は深い靄に包まれていた。
この気持ちは、一体なんだ?
つづく
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