第55話 秘密の地下通路
魔王場内に入ったはいいが、やはりそこも魔族でごった返していた。中には酒を飲んでいるのか、仲間割れをして殴り合っている者たちの姿もある。おれたちは隠れるように場内を移動することにした。イヌワシのワッシャンは、見ようによっては魔族に見えないこともない。それに、今でこそイヌワシの姿をしているが、元は国王陛下だったのだ。場内のことは知り尽くしている。
そんなわけで、おれたちは、ワッシャンの先導で秘密の地下通路に入ることができた。ここに魔族がいなかったのは、本当に運が良かった。
だが、水路のようになっているその道は決して足元が安定しているわけでもなく、また炭で塗られたような闇がよどみなく広がっていた。時おり首すじに垂れてくる水滴に驚かされたりもした。なんとまぁ、なさけない姿だ。
「では、これでどうだろう?」
ささやくようなワッシャンの目から、二筋の光がこぼれ出した。なんと便利なのだろう。いや、国王陛下相手に失礼なことを思ってしまった。
王族しか知らない秘密の通路だとは言うものの、やはり安心はできない。ミミーたちを人質に取られている以上、ここまで来て魔族に見つかりたくもないし、またおれたちもひどく消耗していた。こんなぬかるんだ場所で戦闘になれば、負けは目に見えている。
早朝に宿を出てからこっち、休む間も無く歩いているが、はたして進んでいるのかあやしいところだ。だが、そんなことをぼやいている暇はない。城の外ではマリンとジョージが戦っている。カレンも大切な白馬を失ってしまった。これ以上の犠牲を出さないためにも、早くミミーたちを助け出さなければならない。
ワッシャンの光線のおかげで視界がひらけはしたものの、水路のようなヘリや壁には虫やネズミや、なにかの動物の死体なんかもあり、これならまだ魔族の方がマシだったかもしれないなんて腰が引けてくる。
「逃げるなよ?」
ふいにカレンに叩きつけられた言葉で、己を奮い立たせる。
「すまん。すっかり弱腰になっていた」
「ふっ。そういうところが、乙女心をくすぐっていたのかな?」
「はぁ? なんだい、そりゃ?」
だが、暗がりにまぎれて、カレンの表情がよくわからない。乙女心って一体?
「ここを左に曲がる」
おれの肩からワッシャンが飛び立って、足元を照らしてくれた。
なるほど、ここで左に細い道がある。だが、かなりの上り坂だが?
「ここを登れば、ミミーたちが監禁されている檻に通じる。ほれ、早く」
ワッシャンに急かされて、ブロックに足をかける。が、おれの体がでかすぎて、何度も滑り落ちてしまった。
「まったく。だらしのない。カレン、先に行きなさい」
「いや」
カレンはワッシャンの言葉をさえぎると、素早くおれの後ろに回り込んだ。
「ぼくが後ろから押してみよう」
「でも、ああ、そうか。なんかいろんな意味でアウトな感じだ。どうしよう?」
「迷っている暇などない、マローン。ぼくが押すから、ミミーを助け出すんだ」
「了解しましたっ!! あざっす!!」
こんなおっさんの背中を押させてしまって、本当にすみませんでしたっ!!!
つづく
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