第54話 いざ、魔王城へ!!

 魔王城周辺には、さっきよりもたくさんの強そうな魔族がたむろしていた。


「オーオオッ!!」


 地面が、大気が振動するほどに竜族がおれたちを威嚇する。だが、ひるまない。カレンは愛馬を駆り立てながら、先陣を走る。毒のついた矢じりで、次々と魔族を射る。そして時に短剣を抜き、応戦する。カレンのうつくしい顔に魔族の紫色の血がしたたった。


 それを袖で荒くぬぐうと、また矢を射った。


「地獄の業火で焼き尽くせっ!! ヘル・ボーン!!」


 マリンの術は完璧で、でも、すべての魔族を焼き払うことまではできなくて、硬い皮膚を持つ魔族がマリンの側まで来ると、待ちかねたようにジョージが斬り倒す。


 みんな、汗と血にまみれていた。そしてついに、カレンの愛馬が斬られた。おれはすぐに飛び出し、ヒールの魔法をかける。今度こそ助ける!! だが、傷が深すぎた。魔族と応戦していたカレンが、おれの手を取り、首を左右に振る。


 ごめんな。また、助けられなかった。息を飲むおれの肩に、ワッシャンが乗る。


「あきらめるなっ!! まだ負けたわけではないっ!! ミミーを助け出すのだろう!?」


 その言葉に鼓舞されて、おれは剣を振るった。四方から魔族に囲まれても、負ける気はしなかった。


 なにより、マリンの術に磨きがかかり、半円くらいまではなぎ払うことができた。


 だが、これではただの消耗戦。おれたちは肩で息をしていた。


「ヒール!!」


 おれはみんなにヒールをかけた。そういえば、今日はミミーにヒールの魔法をかけてもらっていなかったことを思い出す。


 こんな時なのに、四十肩が治ったことがうれしかった。ミミーのことを思うと、力がみなぎってくる。


 ミミーを助けてみせる。そのためなら、彼女の父親に刃を向けることもいとわない。そう思っていた。


 ふいにカレンがおれの背中についた。


「年なのだから、あまり無茶をしないでくれたまえ」

「わかってるさ、カレン。だがな。今無茶をしなくて、いつ無茶をするんだよ? おれは、ミミーも、ほかの子たちも助けたいんだ。そのためなら、無茶ぐらいなんてことない」

「お人好しなんだか、自分の気持ちに気付いてないんだか」

「なんだって?」

「なんでもない。来るよっ!!」


 ドラゴンの炎がダイヤモンドの盾にぶちあたる。本当にこれ、借りられてよかったな。


「このままだと、魔王城に入ることすらできない」


 ラチがあかずに焦れていたところへ、ジョージとマリンが近づいてくる。


「ここはあたしたちにまかせて。二人は魔王城へ向かいなさい」

「だが、マリン。それではきみたちの身がもたないではないか」

「元カノの体力を忘れたわけじゃないでしょう?」


 そう言うと、マリンは意味ありげににたりと笑う。強がりだ。そんなことはわかっていた。だが、ほかに方法はない。


「行くぞ、マローン。ミミーを救い出すのだ」


 おれの頭の上でワッシャンが叫ぶ。しかたない。


「二人とも、絶対に死ぬなよ?」


 念を押せば、二人の笑顔が返ってくる。


「あたりまえじゃない。あたしまだあなたに、ダイヤの指輪を作ってもらってないもの」

「おれだって。まだマリンの花嫁姿を見てないもんな」

「勝手にのろけてろ。行くぞ!!」


 こうして、おれとカレンとワッシャンは、魔王城の中へ踏み込んだ。


 つづく


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