第49話 はがゆさ
「だが、あわてるでない、マローンよ」
「これがあわてずにいられるかよっ!? ミミーが殺されるかもしれないんだぜっ!!」
「時間はある。大魔王降臨のための儀式には、必要なものと時間、それにもっとたくさんの生け贄が必要となる」
「もっとたくさんの生け贄って、まさか?」
おれの脳裏に魔族にさらわれた若い女性たちのことが浮かんできた。なんてことだ。こんなところで話がつながるなんてっ。
「そうあわてるでないて。さっきも言った通り、娘たちとミミーはそろった。彼女たちはまだ生きておる。最後のピースはおそらく、女神だろう」
「女神様を? どうして?」
「女神は、あれはわたしの娘、シシリーが転生したのだ」
衝撃の告白に頭がくらくらしてきた。
「じゃあ、あの女神様は本当にミミーのお母さんなんですねっ!?」
「ミミーは気づいておらんが、そうなる。ここに至るまで、長きの年月をついやした。幾度も、幾度も。失敗するたびにシシリーは、その命と引き換えに時空を歪めつづけた」
「時空を歪めた? タイムリープみたいなことか?」
「そのようなものだろう。だが、それをつづけるたびに、シシリーの寿命は確実にすり減っていった。これが、ラストチャンスなのだ」
そんなことを突然言われても。前世でハマった本の中に、死人を救うために何度もタイムリープを繰り返す物語があった。それはとても壮絶で、読んでいるだけでも気が遠くなったものだ。あの女神様に、そんな秘密があったなんて。
「マローンよ、城へ行き、みなを助け出すのだ」
「でもまだ準備ができてないのにっ」
「マローン」
背後でカレンが、そしてマリンやジョージ、それにヒロユキまでが立っていた。
「ぼくたちの心の準備はできているよ。おそらく、ミミーの素性がわかった時から、こうなる予感はしていた。それだけに十分注意していたのに。ぼくの不注意で、すまない」
「あやまるなよ、カレン。ミミーはまだ生きてる。そうだろう? だったら今すぐにでも旅立とう」
「それはできない」
意外すぎる言葉に拍子抜けするおれ。
「夜は魔族の手先がうろついている。明日の朝を待とう。それぐらいの猶予はあるはずだ」
朝まで待てというのか。だが、無謀に突っ込んだところで、ミミーを助けることはできない。
「わかった。じゃあ、あしたの朝に旅立とう」
「そういうことだから、みんなは今日はよく休んでおいてくれ」
それぞれで返事をすると、宿へと足を向けた。おれは、なんだかもどかしい思いで、納屋から出て行くことができない。この先、魔族との戦いになれば、まちがいなくおれは足手まといになってしまう。これまでは運が良かっただけなんだ。
だから。
おれはワッシャンと向き合った。
「ワッシャン、お願いがある。いや、あります、かな?」
「いつもどおりでかまわない。願いとはなんだ」
おれは一拍置いてから口を開いた。
「女神様に、会わせてくれないか?」
「もう気がついていると思うが、女神の寿命は時空を歪めつづけた代償で尽きかけている。簡単なことに思えるだろうが、わたしの力を使って実像をあらわすことも、なんらかの魔法を使うことも、神事に背く行為に当たる。つまりシシリーはその都度、その身をけずっているのだ。ただ、ミミーを助け出すことのためだけに」
「うん、なんとなく気づいていた」
「わたしのこの体を通じて、女神を召喚できるのは、あと数回しかできない。シシリーが消滅してしまうからな。それでも、今必要なのか?」
「ああ、ごめん。そのせいでシシリー様とミミーを会わせてやることができなくなったら、迷わずおれをなぐってくれ」
「そうか、承知した」
ワッシャンは羽根を広げた。そこから、女神様があらわれる。
「どうしましたか? マローン」
すました顔をしてあらわれた女神様に、怒鳴り散らしたい気持ちをおさえて、土下座をする。
「お願いします!! おれに、魔族と戦える魔法をかけてくださいっ!! おれ、わかっていたのにミミーがさらわれちまって。それで」
「マローン、どうして最初からそれを願ってくれなかったのですか? 今のわたくしにはもう、そのような力は残っていないのです」
「ごめんなさい。ワイヤーアクセサリーのためにムダな力を使わせてしまったですよね。そうだ、あなたたちは、ドリー経由でおれのアクセサリーを買ったんでしょう? だったらなぜ、ドリーの正体を見破れなかったんですかっ!?」
そうだ、なぜ女神様なのに気づかなかったんだ? おれは、見当違いな罵声を浴びせてしまっているのかもしれない。でも、どうしても言わずにはいられなかったんだ。
「魔族が巧妙にドリーの魔力を封じ込めていたからです。そのため、おそらく本人も、今まで自分が魔族だということに気づかなかったのかと思われます。わたくしたちが、彼の本性を見抜けなかったのはたしかですし、それについてはあやまります」
そうだった。女神様は、ミミーの母親だったんだもんな。ミミーのことをかばって殺されて、女神様として転生して、だから、故意にミミーを危険に晒したりするはずがないんだ。
「その、すまなかった」
言いすぎてしまったことを素直に反省すると、女神様がひときわまぶしく輝き始めた。
つづく
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