第48話 ミミー

 夜半すぎに、部屋があわただしくノックされた。時間がわからなかったが、ただ事ではないのを察して飛び起きたおれは、ドアへと走りよる。


「どうした?」

「マローン!!」


 めずらしく血相を変えたカレンだった。


「どうしたっ!?」


 おれの声に、ジョージとヒロユキが目を覚ます。


「ミミーが、ミミーがどこにもいないんだ!!」

「なんだって!?」


 もちろん、廊下やトイレなども探したのだろう。


「納屋は!?」

「まだだっ!!」


 叫ぶようにそう言うと、反転して納屋へと走るカレン。マリンも青ざめた顔であちこちを探してくれている。


 それは、肌寒い夜のことだった。おれたちは羽織るものも持たず、夢中で納屋に駆け込んだ。はたしてミミーは、いなかった。


 夜目にもくっきりと浮かぶワッシャンめがけて走りよる。


「ワッシャン、ミミーは!? どこにいるんだ!?」

「マローンよ。ミミーは、さらわれた」


 その声でおれののどはゴクリと鳴り、現実を受け入れようともがく。


「そんなっ!? どこのだれがそんなことをっ!?」

「ドリーだよ。やつは、魔族の手先だったのだ」


 あんなにかわいがられていたというのに、嫌に冷静なワッシャンに腹が立つ。


「知っていたなら、なぜ助けなかった!?」

「残念ながら、わたしの能力は魔法をかけられた時に抑制されてしまったのだ。そのため、ドリーの正体に気づくことができなかった。それに、本気で助けられなかった理由はこれだ」


 ワッシャンは、鎖でつながれた足環を見せる。これでは、いくら大賢者でも動くことができない。


「たかが足環で……。そんな。おれはどうすりゃいい?」

「魔王城へ向かうのだ。そこに必ず、ミミーはとらわれている」

「どうしてミミーはさらわれたんだ? ほかの女の子たちとおなじ理由なのか? なにか知ってるんだろ? 答えろっ!!」


 はたから見れば、滑稽だったかもしれない。イヌワシに恫喝するおっさんの姿なんて。でも、取り繕っている場合ではなかった。


「マローンよ。心して聞け。ミミーはかつて王国の姫君であった。わたしはその祖父、国王だった」

「姫君? 国王だって? ははっ。よくできた作り話だ」

「本当だ。わたしは、魔族に術をかけられ、イヌワシの姿へ変えられてしまった。そうして、娘のシシリーがミミーをかばって殺され、気絶した状態のミミーだけを命からがらたすけ出すことができたのだ」

「うそだ」


 おれの声は闇夜に吸い込まれてしまう。


「うそだっ!!」


 思い浮かぶのは、ミミーの泣いた顔、怒った顔、すねた顔、そして笑った顔。


「なんで? どうしてミミーがさらわれたんだ? あんたは無事なのに、どうして?」

「おそらく、儀式に使おうとしているのかもしれない」

「儀式だって? なんの儀式だよっ!?」

「大魔王降臨のための、生け贄の儀式だよ。娘たちはあらかた集められた。残るはミミーだけだったのだ」


 おれの頭はかっとなって、夜に叫んだ。


「生け贄だなんて、そんなこと絶対にさせないっ!!」


 つづく

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