第34話 違約金

「あんたら、よくドリーにケンカ売れるよねぇ?」


 気の強そうな宿主が、朝食を運びながら、おれたちに声をかけてきた。


「ドリーって一体、何者なんです?」


 おれが聞くと、宿主はふうむとうなって、あごひげをさすった。


「この地域の宝石商を陣取るおさ、といったところかな? おれもくわしく知らないが。どこか秘密めいたところがあるから、あんたらもうまいこと旅をつづけたいのなら、早く仲直りした方がいいぜ」

「でもっ。あの人はマローンを盗賊におそわせたんだよっ!!」


 一見大人しそうなミミーが、感情むき出しで訴えたものだから、宿主も腰がひける。


「そうだそうだ。あんたら、盗賊におそわれたって言っていたな。見たところケガはなさそうだが、大丈夫だったかい? あと、悪いがさっき、部屋を見てきたんだが、あれだと違約金が発生しちまうが、いいかね?」


 いいも悪いも、早くここから立ち去りたいんだ。違約金くらい払えるだろう。


 おれはマリンに顔を向けるも、背けられた。しかたないなぁとカレンが皮袋を取り出した。


「金貨三枚。それで十分だろう?」


 宿主はもみ手をしながら金貨を受け取った。銀行なんてものは街場にしか存在しない世界だ。いつ、ゆうべみたいに盗賊におそわれるかわかったもんじゃない。おれはともかく、ミミーたちが心配だ。金貨三枚ですむなら、それに越したことはない。


 宿主はああ言っていたけれど、おれたちには女神様というコネがある。いざとなったら、女神様に仲介屋を紹介してもらって、アクセサリーを売ればいいだろう。


「色々と嫌な思いをさせちまってすまないな」


 宿主はそう言って、おれたちを納屋まで見送ってくれた。ワッシャンがいるからと安心していたけれど、実際この目で見ないことには、カレンの愛馬がきちんと生きているかどうか、心配でならなかった。が、ありがたいことにその気持ちも杞憂に終わった。よかった。ワッシャンも無事だ。


「世話になったな」


 おれがそう言うと、宿主は大きく手を挙げた。


「またのご利用をお待ちしております」


 もう来るか、とも言えなくて、固まった笑顔を宿主に向かって出発進行。安全のため、白馬とワッシャンのコンディションを確認したけれど、こちらも大丈夫だった。


「さぁ、ミミー。乗って」


 宿主が見えなくなると、すかさずカレンがミミーを白馬に乗せて、自分も後ろから支えるように乗る。


 この二人、本当に白馬が似合うし、きれいなんだよなぁ。


 こうして今日は、大した寄り道もせずに黙々と魔王城へ向かって行くのだった。


 つづく


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