第33話 寝起きが悪い男
はっ!? 寝落ちしてた。手元のアクセサリーは、無事か。よかった。でも、やっぱり肩が痛い。
ってなわけで目をこすりながらもなんとかアクセサリーを皮袋にしまうと、めずらしくまだジョージが眠っていた。彼もああ見えて、結構繊細だったんだな。盗賊におそわれて、目がさえてたのはおれだけじゃなかったわけだ。
そこで、ぱっと目をさましたジョージ。なにを思ったか、おれに斬りかかってくる。
「待て、待て!! ジョージ、おれだ。マローンだ」
そこまで言って、ようやく目をパチクリさせるジョージ。しかし、またあらためて斬りかかってくる。おれも四十肩だし、思うように防御できない。
「マローンっ!?」
そこへ、異常を察してくれたのか、ミミーたちが部屋に入ってきてくれた。すぐに日傘のレースでジョージを押さえつけてくれたミミー。ありがとうよ。
「もう、ジョージったら、また寝ぼけているの?」
「……いつものことなのかい?」
おれが聞くと、マリンは肩をすくめた。
「いつももなにも、目がさめて、動くものを見れば、なんでも攻撃するわ」
そうなんだ。
「だからこうして、しばらく放っておくのが一番なの」
「マローン、肩平気?」
「ああ、ミミー。またお願いできるか?」
「うん、わかった。ヒール」
ミミーの治癒魔法でみるみる肩の痛みが治まってゆく。本当にありがたい。
「ありがとうな。その――」
「うわっ。みんな、どうしたの? おれ、またなんかした?」
言いかけた言葉尻を、見事ジョージに奪われた。
「なんでもないわ。さぁ、早く朝食に行きましょう」
ジョージが正気にもどったところで、レースをきる。切ったレースはなにかに使えそうだから、あわてて拾って、皮袋の中に放り込んだ。
こういうレースをピアスにくっつけてもいいよなぁ、なんてほくほくしながら食堂に向かうと、疑惑の人、ドリーがそこにいた。瞬間、おれの背中にミミーがかくれた。
「よぉ。昨日のドレスはお気に召さなかったかい?」
すかさず歩み出るカレン。颯爽としている。
「どのようなつもりであのドレスをくれたのだい?」
「どのようなって、昨日言った通りよ。商談であのドレスをもらい受けたが卸す場所がないから、似合いそうなあんたにあげただけさ」
「あんなに上等なドレスなら、買い手はいくらでもいるだろうに?」
「ビジネスはそんなに甘くないのよ。そのかわり、今日はこっちの言い値でアクセサリーを売ってもらうよ?」
「悪いが、今日の取り引きはなしだ」
おれが言うと、ドリーは目をぎらつかせながら、そいつはおかしいなぁと踏ん反り返った。
「ゆうべな、宿の部屋の中で盗賊におそわれたんだ。すべてのアクセサリーは奪われたよ」
「へぇ? そんなことがあったんだ?」
「とぼけるなっ!! 全部あんたの差し金だろう? ドリー!!」
「おいおい、とんだ言いがかりだね? なんでおれが盗賊をたきつける必要があるっていうんだい?」
この期に及んで、ドリーはでっぷりとふくらんだ腹を叩いた。それがまた、おれの癪に触る。
「いいか、おれたち男はいい。だけどな、もし、ミミーたち女性陣をおそうようしむけたら、その時はただじゃすまないからなっ!!」
テーブルを壊さんばかりの勢いのおれに、ドリーがのけぞる。
「本当に、おれのせいじゃないんだがなぁ」
「っ!! ドレスも、返しますっ!! 一回着ちゃったけど」
「いいよ、いいよ。おれに疑惑がかけられている以上、なにも受け取るわけにはいかないさ。だけどな、マローン。この地でアクセサリーを売ろうっていうんなら、どうしてもおれの手が必要になると思うぞ。なんなら宿主に声をかけてくれたら、どこへでもかけつけるから、遠慮しないでくれよ?」
おれたちにそう言うと、ドリーはすっかり酔いが冷めたと言わんばかりに宿から出て行ってしまった。
つづく
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