第30話 石の良し悪しぐらいわかってらぁ
「石も取られちゃったの?」
「うん、ごめん。おれの方はナンバリング? してないんだ。だから――」
「でも、石の輝きを見れば、それがおれたちの石かどうかの判別はつく、そうだろう?」
けわしい顔でおれが言ったせいか、一瞬みんなで黙り込んだ。
「まぎらわしい冗談はやめてくれたまえ。そういうのは、趣味が悪い」
「だいたい、マローンごときに石の良し悪しがわかるのかしら?」
「おおいっ。おれの唯一の趣味を否定しないでくれよ。石の種類はわからなくとも、その輝きが天界からもたらされたものか、この地域のものか程度のことならおれにもわかりますってぇ」
それだけは絶対にゆずれない。めずらしくおれが断言したもんだから、マリンが胸元をゴソゴソしている。バツが悪くて目をそらすおれの前に、加工前のアメジスト二個を差し出した。
「なら、あててごらんなさい。どっちがあたしたちの石かどうかを」
手に取ってもいいのかを確認すると、マリンは渋々うなずいた。おれにはドリーのような虫眼鏡はないけど、生まれつき驚異的な視力がある。まだ老眼とは縁がないのはありがたい。ってわけで、研磨される前の石を二つかかげて首をかしげる。
「はて? どっちも女神様が出してくれた石に見えるが?」
さっきまでの自信をなくして答えるも、マリンはあらぁと口を開けた。
「残念ながら、あっているわ。どっちもジョージの皮袋からくすねたものよ」
「恋人同士でそれはどうなんだ?」
おれが突っ込むまでもなく、カレンが言ってくれた。それに関しては激しく同意ってやつだ。
「あら? いつどこで、どんな不幸に見舞われるかもわからないのに、お金になるものを手にしてないなんて、不安だわ」
マリンがあたりまえみたいな顔をして言うから、さすがのカレンもポーカーフェイスがくずれた。
「思い出した。その手グセの悪さが元でわかれたんだったな」
「あら? 青い春ってやつだわ。それに、わかれた直接の原因は、カレンが浮気したからでしょっ」
「あれは、きみの間違いだっただろう?」
「そうだったかしら?」
二人がつきあっていたことは出会い頭に教えてもらったが、そんな苦い経緯があったとは。さてと、これだけでもひとつ、ラノベのネタになりそうだな。
「まぁ、今回はその視力にめんじて、盗賊に盗まれたものは溶かされてたらおしまいだから、仕方ないけどあきらめることにするわ。でも、今後は気をつけてちょうだい!?」
ジョージもよ、と念を押すマリン。本当、恐妻家だな。
「ところで。そろそろミミーがドレスアップしている理由を知りたいんだが?」
いつまでも部屋を留守にしているというのも不安がある。おれたちはとりあえず、荒らされた男部屋に移動することになった。
つづく
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