第31話 乙女心と違約金
盗賊に襲撃された部屋を、女性陣がややあきれながら見回す。見事に全部ぶっ壊されたからな。なさけない。
「これは、違約金を払わなくてはならない案件だわね」
「もちろん、払うのはぼくたちの方、ってことになるよね? 盗賊がつかまっていないのだから」
マリンとカレンが息のあったかけあいをするけれど、ミミーだけは涙目になって耳をぴこぴこさせて青ざめている。たび重なる盗賊との戦いに、ミミーのような女の子が慣れることはないだろうから、おそろしい景色を見せてしまったな。
「ごめんな、こわがらせちまって」
「あたしたちは、運がいいのね。こんな風にされていないもの」
そう、女性陣がおそわれなかったことだけが唯一の救いだ。ミミーたちになにかあったら、と思うとぞっとする。まぁ、いざとなったらマリンの業火が宿ごと焼き払うことになるだろうが。
「それで、その衣装すごく似合っているが、一体どうしたんだ?」
「ドリーが持って来たの。あたしにどうぞって」
うん? ドリーが女性陣の部屋に入ったってのかい? そいつはおだやかじゃないなぁ。あいつはただの宝石鑑定人じゃなかったのか?
「それが、どうしてもあたしに着て欲しいからって。なかば無理やり押し付けられて」
あとはノリと勢いでマリンたちに装飾してもらったのだそうだ。とにかくこのドレス、なんでミミーだけに?
「サイズがこれしかなかったのですって。あたしも断ったのだけど、荷物になるからって」
そうか。それにしてもあれだな。ミミー、こうして見ると、なんだかとてもお姫様っぽい。
「ああ!! ミミーはお姫様だったんだね!!」
思ったことをすぐ口に出してしまうのがジョージの悪いクセだ。瞬間、顔を曇らせる女性陣。やっばりこれは、言ってはいけない言葉だったんだ。
「ちょっと、ジョージ。どうしてそういうことを言うのっ!?」
すぐさまマリンがジョージをどやしつけるも、当のジョージはあっけらかんとしたままだ。
「ああ、ごめん。マリンもとってもきれいだよ? でも、今のミミーはまるでお姫様みたいに見えるからさ」
「そういうことなら、それでいい。マローンも、それで異論はないな?」
「はいっ。ありません」
たとえ本当にミミーがお姫様だとしても、それを言ってはいけないって雰囲気なことぐらい、おれにだってわかる。なので、カレンに念押しされてもすぐうなずいた。
……っていうより、なんでおれ、床に正座させられているんだろうか?
「まぁでも。だとするとドリーのやつ、なんかちょっとあやしくないか?」
「ドレスをくれると、あやしいの?」
ミミーが不安そうにドレスを見回す。若い女性が魔族にさらわれる事件が相次いでいるから、ちょっと過敏に感じているだけかもしれないが、振り払える炎なら、今のうちに対処しておかなければならない。
「そういう意味じゃなくて。あのおっさん、どうしてミミーだけにドレスをくれたんだろうな? もしかして、どこかでミミーのことを見てるんじゃないだろうか?」
気持ちの悪い直感に顔をしかめたら、みんなでざわめき始めた。
「やっぱりあたし、これすぐに脱ぎたい」
「ああ、そうした方がいいだろう。一度着てしまったけれど、宿の違約金のたしにはなるだろうし」
「そうね。こんなにきれいな絹のドレス、めったにお目にかかれないもの」
「えっと? なんの話だっけ?」
ジョージはともかく。おれたちはもっと緊張感を持つべきだと自覚した。だってそうだろ? ドリーの目的がアクセサリーじゃないのだとしたら。それはとても嫌な予感になる。
ミミーを守らなければならない。なぁに、前世でできたんだ、この世界でも守り抜いてみせるぜ。
つづく
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