第29話 いいわけするなよ、男だろぉ?
で、ドア越しに今襲撃された経緯を簡単に説明したわけだが。よく考えたら、どこでドレスなんて手に入れたのか、なんでミミーだけが着飾っていたのか、そもそも悲鳴をあげられる理由があったのかすらわからず、ひたすら落ち込む。
「とにかく。きみたちは裏庭で剣の稽古でもして頭を冷やすといいよ」
しかめっ面のカレンに言われて、その通りにするおれたち。しかし、よく考えたら、こんな状態じゃあ目がさえちまってたしかに眠れねぇや。
「マローンごめん。石を出せる皮袋は取られなかったけれど、あるだけの石は持って行かれちゃった」
剣士であるにもかかわらず、盗賊ごときに金品を奪われたとなれば、そりゃプライドも傷つくってもんよ。ジョージも後で、マリンにどやされるんだろうな。
そんな思いを胸に、剣を振るうおれを、いつもより真剣に指導するジョージ。
「そうそう。最初よりはよくなっているよ。でもまだあまいっ!!」
言うなり、木刀で手首を打ち払われる。
「痛っ!! 少しはかげんしてくれよ。ヒール」
そして自分でヒールをかけるなさけなさときたら。おれ、今日はほとんど立ちっぱなしだし、アクセサリーを作っている側であるにもかかわらず、食事もほとんととれていなかった。ぐぅーっと、なさけない音が腹からしぼり出る。
「くぅーっ!!」
どうにもならないいら立ちを夜空にぶつけるも、宿の窓からうるさいとしかられてしまう始末。おれって一体……。
「お腹、すいたでしょ?」
ふいに背後から夜空に響くウィスパーヴォイスをかけられた。
「ミミー。そのっ」
ミミーはさっきのピンクのドレスに、髪をゆるくウェーブさせていて、いつもよりお姉さんな雰囲気をかもし出していた。手にはでっかいおにぎり。この世界に米があることをおどろいてはいけない。なんならハンバーガーみたいなものまであるんだから。
「どう、かな? 似合う?」
頬を赤く染めながら、おれたちにおにぎりを差し出してくる。罠か? トラップかなにかか、と思うも、空腹にはたえきれず、おにぎりに手を伸ばした。それにかぶりつくよりも早く、口は勝手に彼女をほめたたえる。って言っても、元来口下手なおれだ。ありふれた言葉しか出てこないが。
「すっごく似合っている。きれいだ」
「本当?」
うれしそうなその姿に、うっかり見惚れていると、竹刀を持ったカレンに背後から肩を叩かれる。
「痛っ!!」
「どんな瞬間も油断するな、マローン」
「はい。ヒール」
うっかりおにぎりを落としそうになってしまった。落ちても食うけどな。
「そんなだから、宿屋の中で盗賊におそわれるのですわ。それで? 被害届は出したのかしら?」
「ああ、一応出してはおいたが、宿内でのもめごとは責任が取れないと言われている」
「それって、取られ損じゃないっ!!」
ミミーがめずらしく感情もあらわに怒っている。そりゃそうだ。おれみたいなきたないおっさんが、せっかく役に立てそうだったっていうのに、肝心のアクセサリーを盗まれちまったんだから。
「だが、どれも完成品ではないし、ナンバリングもしてある。それが流通したとなれば、出どころを洗うことはできる。天界に持って行かれてなければ、の話だけど」
「あら? マローンにしては、準備がよかったのではない?」
マリンに褒められてしまった……。いや、しかられたいとか、そういうわけでは決してないのだが。なんというか、こう、しかられる準備をしていたから、気持ちがから回ったんだ。うん。
「一応、用心してはいたんだ、おれなりに」
それでも、ふせぐことができなかった。おれの眼の前に、二個目のおにぎりが差し出される。暗がりでも純真な瞳がおれをとらえて離さない。
「あたしがにぎったの。もうひとつ食べて」
ミミー、今日は二回も泣かせちまったっていうのに、なんてやさしいんだ。
「いただきます」
そうしておれは、しばらく砂糖味のおにぎりをありがたくいただいたのだった。ちなみに、ジョージは味音痴なのか、おにぎりを知らないのか、うまいうまいと食べていた。
つづく
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