第18話 ブローチの製作
女神様が陽気に消えてしばらくたってから、ようやくジョージの目が覚めた。頬っぺたは赤く腫れあがってはいたものの、おれと同じで頑丈なのだろう。すぐにその腫れもひいた。
「なぁ、ジョージが気絶していた時に、女神様からジョージに宝石の加護をつけてもらったんだが、意味がわかるかな?」
「ああ! それなら、はっきりと聞こえていたよ。ぼくは石の研磨もできるようになったんだって。どんな石でも無限に出せるんだって。それって、すごいよねぇ? えへっ。マリンにダイヤの指輪をプレゼントしちゃおうかな?」
いや、それは気が早いような気がする。取り敢えずジョージに皮袋から石を出してもらったところ、小さな普通のアメジストしかなかった。まぁいい。ここからランクアップしていくのがたのしいじゃないか。
「アメジストか。研磨してもらって、ミミーのブローチにするのも悪くないな」
おれが言うと、ジョージは不思議そうに目を見張った。
「なぁ、マローンって、ミミーが好きなのか? その、よく気を遣ってやっているし、プレゼントもしてるし」
「好きっちゃ好きだが、保護者的な意味だな。なんていうか、父親みたいな気持ちになっちまう。ミミーにはしあわせになってほしいんだよ」
「ミミーを泣かせるでないぞ?」
おおっ。大賢者様、ワッシャン。突然口を挟むなよ。おどろくじゃんか。ふだんは寡黙なイヌワシなのだが、時々こうして会話に参加してくる。
「わかってますって。だから、ネックレスができあがったら、カレンか女神様に守護魔法をかけてもらって、完成っと!」
「ほかの石はどうする? おなじ種類のものがたくさん出てきたんだけど?」
「じゃ、ブローチやネックレス、指輪なんかに加工して、売り歩こうぜ」
そうすりゃしばらくの間は宿屋代にはなるだろうさ。だが、このアメジスト、ちぃとばかし小ぶりなのが気になるなぁ。もっと鍛錬していけば、石の種類も大きさも豊富になるんだろうか?
「ってことでまずは一個目。ワイヤーを駆使したブローチだから、石が小ぶりでも気にならないぜ。どうだ!?」
できあがったブローチをジョージに見せると、やつは目をまん丸にしておどろいた。こいつのこの、うそのつけない正直なリアクションが好きなんだ。
「すっごいや。小さな石をこんな風に、枝になれた果物に見立ててるんだね?」
「そうそう。おれたちの発展のために」
「でもこれ、ちょっと重いんじゃないか? ミミーにはちょっと――」
「あたしがどうかした? あら? 素敵なブローチね」
ミミーはおれの手からブローチを取り上げて空へとかざす。
「気に入ったかい? ミミー。きみへのプレゼントなんだけど。ジョージが重いんじゃないかって言うから、べつのを作ろうかと思って」
「そんなことないわ。マローンが初めて作ってくれたブローチだもの。ありがたく受け取るわ。あたしがもらってもいいのよね? マローン?」
「ああ。気に入ってくれたのならなによりさ」
ミミーはとろけそうな笑顔で微笑んで、ブローチをマント留めと交換した。なるほど、そういう使い方もあるか。
「なぁ、カレン? 悪いんだが、このブローチに守護魔法をかけてくれないか?」
愛馬の毛皮を手入れしていたカレンが優雅に振り向いた。本当に絵になるな。
「かまわないよ。ついでにぼくの分も作っておくれよ。できれば、ミミーとおそろいがいいんだが?」
「え? それってもしかして?」
みなまで言うな、ジョージ。
「もちろんだぜ。すぐ作るから」
「でも、それじゃあ」
するってぇとなにか? ジョージはカレンの恋路を邪魔しようなんて野暮なことを考えてるのか? あん?
「マローンがそれでいいのなら、かまわないけどさ」
ジョージはまだ不満そうにしていたけれど、ブローチはパパっと作り上げた。ついでにそれに近いアクセサリーを十個ほど作って、暗くなる前に宿屋へと向かった。
つづく
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