第16話 ミミーの革命

 そんなわけで、ヒロユキの襲撃を警戒しつつの魔王城奪還になっちまった。おまけにさっそく盗賊が出てきた。


「ひゃっひゃっひゃっ!! こりゃあー美女ぞろい、よりどりみどりだぜぃっ!!」


 下品な笑い方をする男の首と体をスパンとはねたジョージは、返り血を浴びながらクールに笑う。


「そっちにはヒーラーがいないのかい?」


 ずばっと血まみれの頭と体が地べたに落ちて、盗賊があわてる。


「地獄の業火で焼き尽くせっ!! ヘル・ボーン!!」


 そこにマリンが必殺技を繰り出した。これ、敵を全滅させるには最適なんだけど、ミミーにはちょっと刺激が強いんだよな。その後の臭いの問題もあるし。


「まだまだだ。逃しはしないよ!」


 そしてまったく容赦しないカレンは、白馬の上から弓矢を射る。


「ぐぇえっ!!」

「撤退だ!! 撤退しろっ!!」


 そこまでされて、ようやく撤退しようとする盗賊たち。本当におろかだよ、おまえら。それだけの執着心があったら、魔王城奪還に向かえばいいのにな。


 ……そういや昔、王様に孫娘がいたとかなんとか聞いたことがあるけど、王様も魔族になっちまったんだろうか?


 結局、今回もなんの役にも立てなかったおれの腕に、ミミーががしっとしがみついてきた。ちなみに、おれの肩はすっかり大賢者ワッシャンの定位置になっている。しかし、ヒロユキにおそわれた時には、ワッシャンは我先にと逃げたという前例がある。が、ワッシャンが巻き込まれなかっただけよかったということにしよう。


「どうした? ミミー? こわかったか?」

「うん。あのね、マローン。あたしにも、剣を教えて?」

「はあっ!? ちょっと待て。おれはまだ剣の稽古をつけてもらっている側だし、それにミミーはそういうあぶないことしなくていいから。そうだ、防御に専念してくれればいいいよ。針金じゃ作れないから、武器屋に寄って、盾を買おう。なっ? みんなもそれでいいよなっ?」

「そうじゃなくて。あたしも、魔王城奪還の役に立ちたい!! あたしも、戦いたいの」

「ぐえっ!?」

「そうは言っても、戦場は危険だよ?」


 ちょっ、カレンさん。おれのことを突き飛ばさないでくださいよ。いや、もうこの二人が並ぶとなんてぇーか、すごくうつくしいことはたしかなんだが。


「そうよ。それにあなた、まだ人を殺したことがないんじゃなくて?」


 マリンに的を突かれて涙を浮かべるミミー。おい、かわいそうだからやめてやってくれないか。ミミーはマリンみたいに容赦なく人を殺せるような子じゃないんだ。


「でも、あたしっ」


 ぐすっと涙がこぼれ出てきたところでワッシャンが羽根を広げて女神様がお出でなさった。一日で二回も登場するとは、これまたどうしたこって。


「皆の者、ミミーを責めないであげてください」

「ですが女神様っ。ミミーってば、ちょーっとかわいいからって調子に乗って。戦いがどんなものか、その覚悟も知らないんですよっ」


 おいマリン。あんたとんでもなく容赦ねぇのな。もうちっと配慮してやれないもんか? ってか、そういう目でミミーのことを見ていたのかよ。ちょっと残念だな。


「ですから、わたくしがこうしてあらわれたのです。ミミー、手をお出しなさい」


 一度鼻をすすってから、カレンに馬から降ろされたミミーは、黙って両手を差し出した。


「さぁ、これを受け取りなさい」


 それは、どう見ても上品な日傘だった。前世で言うところのお嬢様キャラが身につけているような、そういうフリルたっぷりのキラキラした日傘だ。


「あなたはほかの者とちがって殺生ができない性分です。ですから、この傘を常に携帯しておきなさい。見た目はふつうの日傘ですが、ひらけば盾となり、突けば武器になります。またフリルを振れば、相手の体にからみつき、攻撃能力を奪うこともできます。どうです? できますか?」

「はい。女神様、どうもありがとうございます!!」

「よいのです。それよりも、どうか泣かないで。あなたの涙は、周りを悲しくさせてしまう。それだけの力があるのです」


 もう一度鼻をすすりあげたミミーは、無理に笑顔を作って見せたけれど、上手にできなかった。それでも、女神様は満足そうに微笑み、がんばるのですよ、とやさしく言うのだった。


 つづく

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