第4話 ところで相談なんだが

「あのー、ミミーさんもヒーラーなんですよねぇ?」


 なんとなくふわふわした空気をどうにかしたくて、そう切り出してみれば、彼女があわあわと両手を顔の前でふりふりする。


「あたしのことは、呼び捨てでいいですよー。それに、敬語もやめてください」

「じゃあ、ミミーも敬語やめてくれるかな?」

「あたしっ!? あたしは、でも……。うん、わかった。じゃあ敬語やめるね」


 うわー、なんだか恥ずかしいー。なんだろう、このつきあいたてのカップルみたいな会話わっ。


「あたしも一応はヒーラーなんだよ?」

「なら、ものは相談なんだが、実は今、四十肩をこじらせていてだな。ミミーの力でどうにかならんかなぁと思って」

「なるほど。やってみるねっ!!」


 ミミーはいさましくサムズアップすると、おれの肩に両手を置いた。武装しているとはいえ、うら若き女性に両肩を素手で触れられると、なんだかとっても恥ずかしい。


「ヒール!!」


 ミミーが力を込めて叫ぶと、おれの両肩でくすぶっていた鈍い痛みがふわふわと軽くなってくる。すげぇ。ありがたい。


「すごいな、ミミー。痛みが取れたよ」

「そう言ってくれるのはうれしいんだけれど、たぶん、一日で効果が切れちゃうと思うの。よく、お祖父様の肩に力を使っていたから」

「そ、そうなんだ?」


 そうだよな。ミミーって若いし、おれ、なんだかおじいさんみたいだよな。


「だから、あたしが毎日ヒールの魔法をかけてあげるねっ」


 えへっと笑うミミーは、くしゃくしゃな笑顔でとっても無防備だ。そんなことをおじさんに言ったら、勘違いされちまうぞー。


「それはありがたい。それで? そのお祖父様ってのは、今はどうしてるんだ?」


 すぐに曇るミミーの顔色で、地雷を踏んでしまったことがわかる。


「ごめん。立ち入ったことを聞いてしまった」

「いいの。……しょうがないことだもの」


 そう言うと、目の端に浮かぶ涙をそっと指ですくうミミー。まずいな、泣かせちまった。


「こら、マローン!! ミミーを泣かせるのではないっ!!」

「本当にすみませんでしたっ!!」


 本来なら土下座すべきところなのに、頭が後ろ前にくっついちまってるもんだから、お辞儀すらできやしない。なさけないったらしょうもない。


「うふふっ。首、早く直してもらえるといいね」


 そんなおれへとやさしい笑みを浮かべるミミー。澄んだグレーの瞳は、まだ潤いをまとっている。


「本当にごめんな、ミミー」

「いいの。お祖父様は、魔王と戦って、そして破れたの。だからあたし、どうしても魔王を倒さなくちゃいけないのっ!!」


 そんなつらい過去があったのか。


「よしっ!! 力をあわせてがんばろうっ!! おれも、僭越せんえつながら、この魔剣で戦うぞ!!」


 そう、もう決意はできている。たとえ頭が後ろ前についているとしたって、この魔剣さえ手にしていれば、剣が勝手に敵を斬ってくれる。


「たよりにしてるわ、マローン」


 こうしておれたちは、とりあえず魔王城目指して歩き始めた。


 つづく

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