第3話 宿命なら受け入れるしかない

「ひとつだけ、手立てはあります。なんらかの形でもう一度首をはねられ、ヒールで戻せばいいのです」

「ずいぶんと簡単におっしゃいますけどねぇ。首をはねられるってことは、命がけなんですよ?」

「承知しています。ですから、近いうちあなた方には強い仲間が現れることでしょう。そうして、あなたのタイミングで首をはねてもらって、ミミーと力をあわせてヒールの力でくっつければよいのです」


 こりゃまた、簡単に言ってくれるけどさ。さっき、敵意むき出しの相手にはミミーの魅力が通じないとか言ってなかったっけ?


「味方に首をはねられるのでしたら、安全ですよ? おほほはほほ」

「おれがこうなる運命は予言してなかったんですか?」


 女神様なのにっ。


「あら、わたくしを侮辱なさるおつもりですの? あなたのことなんて、なんとも思っておりませんのよ?」


 ですよねー。同じこと、人間界で元妻にも言われたー。つらいー。つらい記憶よみがえったー。


 しかも女神様、さっきからミミーの頭をよしよしとなでているー。ミミーのとろけるような笑顔が美しい。


「こうなったのも、宿命と受け止めるしかありませんね。強くおなりなさい、マローン」

「そー、言われましてもねぇ」


 おれにはなんの加護もなしかよ、まったく。それどころか、こんなことまでほざきやがる。


「そして、あなた方は力をあわせて、魔王を討伐して城を奪還するのですっ!!」


 ……いや、女神様の立場上わかるけどさぁ。いきなりじゃん。おれ戦いに関してはシロウトよ? 単なるヒーラーのおっさんよ? そりゃまぁ、前の連中とは連携取れてたけれどもさ。魔王城奪還に向かってはいたけれどもさ。


「こればかりは拒否することはできませんよ?」

「なんでですかっ!? 強い仲間とめぐり会えるかどうかもよくわからない上に、おれは頭が後ろ前なんですよ。しかも、しょぼいヒールの力しか使えない。これでどうやって戦えというのですかっ!?」


 そう訴えている自分の姿を想像しただけでうっすら笑えるのだからおそろしい。


「では、仲間に会えた時に剣術を習えばいいではありませんか。そうそう、ちょうどひとふり、魔剣を預かっていました」


 そう言うなり女神様は、自分の髪の毛を一本抜くと、ふうーと息を吹きかけた。その瞬間、単なる髪の毛だったそれが、ひとふりの剣へと姿を変える。


「どうぞ。これは、マローンがみなを守るためのものです。もし、チート能力が必要ならば、適宜与えないこともありませんので、そう落ち込まないでください」

「ですからー、おれに剣術なんて無理ですってぇー」

「無理ではありませんよ? なんならその剣、勝手に敵を認識して斬り倒してくれる魔剣ですから。あなたは剣を持ちさえすればよいのです。たとえ、後ろ前が見えていなくてもねっ☆」


 いや、そこでキラキラオーラ出されてもさぁ。


「そういうことですので、後はミミーにすべておまかせします。またなにかあったら呼んでください。都合によってはなんなりとお聞きしますから」


 ほほと笑いながら、女神様はワッシャンの羽根の中に吸い込まれるように消えてしまった。


 呆然ととり残されたのはおれだ。


「と、いうことですので、これからよろしくお願いしますね、マローンさん」


 えへっと笑うミミーは、あざやかなスミレ色のワンピースを軽くつまみあげた。黒のレギンスを履いた足が、上品に交差する。レディのしぐさだ。


「おぬし、いやらしい妄想をしているのではあるまいなっ!?」


 ワッシャン、こわいから。そんなすぐ近くで羽ばたかないでっ。


「とんでもないっ。おれはただ、ミミーの女性らしいしなやかな動作に見とれていただけですって」

「女性らしいっ!? なんだかとても恥ずかしいです、マローンさん」


 そう返されてしまうと、おれも恥ずかしいのだが。


 まぁ、それもまた宿命なのだとすれば、受け入れるしかあるまいな。


 つづく

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