第2話 女神様降臨っ!!

「きみは? はじめましてだよねぇ?」


 状況を飲み込めないおれを、イヌワシが鋭い目で睨んでくる。こぇぇ。


「えーと、ですねぇ。こっちの世界でははじめましてなのです。人間界でのあたしは、トラックにひかれそうになったところをあなたに助けてもらった猫でした」

「あっ! すると、おれはきみの命を助けられなかったというわけか。ごめんなぁー」


 もう自分がなさけなくてしかたない。


「そうではないのですよ、マローンさん。あの時、あたしは命を助けていただいて。恥ずかしながら、家庭を持ち、子供を育てることもできました」


 はにかむように笑う彼女に、目が吸い寄せられる。なんて透明感にあふれた美少女なのだろう。しかも時たま動く猫耳のかわいいことといったらない。


「ですが、死ぬ間際になって、どうしてもあなたのことが気がかりで、死に切れずにいたところを、女神様に転生させていただいたのです。あ、ちなみにあたしはミミーと言います。こっちはイヌワシのワッシャン。大賢者です」

「大賢者……」


 すげぇ。大賢者なんてはじめて見た。


「それでですねぇ。あたしが転生するにあたって、女神様から二、三注意されたことがありまして。あ、直接聞きますぅ?」

「はぁ? 女神様に? 直接? 話を聞けるのですか?」

「はい。あたしには、そういう加護をオプションでつけてくださいました。女神様は猫好きなのだそうです」


 猫好きな女神様。やはり、ライトノベルで言うところの駄女神様ではなかろうか。一抹の不安を抱えながらも、状況にしたがう。それがおれのポリシーだからだ。


「じゃあ、会えるのなら、会ってみたいです」

「わかりました。ワッシャン!! 女神様を降臨してっ!!」


 ミミーがワッシャンに命令すると、ワッシャンはバサリと羽根を広げた。その羽根の中からなんとっ、うるわしい女神様が現れたのだ。


「ごきげんよう、ミミー。そちらがうわさのマローンですね?」

「はいっ、女神様。このお方があたしの命の恩人のマローンさんです。人間界では栗原さんだったかなぁ?」

「栗山です。今はマローンです。はじめまして、女神様」


 首が後ろ前についてしまったものだから、ちぐはぐな状態でおれがあいさつをすると、女神様はうふふっと魅惑的に笑いを返してくれた。


「あなたには、なんの加護も与えておりません。それは、あなたのそばに、ミミーがいることによって、いつでもわたくしに会える加護がついてくるからです」


 それは本当にチートのうちに入るのか? わからんが、それならばしかたがあるまい。


「あの、二、三の注意事項とはなんでしょう?」

「ミミーには会う人すべてをとりこにしてしまうチャームのチート能力ががそわなっています。ですが、敵意むき出しの相手にはミミーのチャームの魅力は通じません。それから、あなたが前世で嫌われていた人間には、このチート能力が無効になることがあります。もしかしたら、あなたの首をはねた者は、前世からの知り合い、と言うことになるかもしれません」


 ヒロユキが、知り合いだってぇ? えーと、そんな奴いたかなぁ? おれ、いつだって孤独だったし、なんなら全人類から嫌われていた自信もある。


「それに関してはおいおい考えるといいでしょう。そして、あなたの首を元に戻して差し上げることは、わたくしにはゆるされておりません」

「ええっ!? じゃあ、おれは一生このまま後ろ前の生活をしなければならないんですかっ!?」


 あまりにも残酷な運命に、おれはミミーがおもわず震えるほどのでかい声で叫び声をあげてしまっていた。


 つづく


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