第1話 首が反対についてしまったもので

 まがりなりにもヒーラーなおれだが、チートな能力は授かってはいない。そもそも転生するにあたって、女神様にも駄女神様にも会っていないのだから、しかたがないだろう。


 それにこの歳になると、いろいろとあきらめるもんだろ?


 だが、こればかりはどうしたものか。


 おれは、後ろ前反対にくっついてしまった後頭部をかきながら、必死に考えた。ヒールの力を使ってくっついてしまった首は、正面に戻すことはできない。一応神経がくっついてしまったからだ。


 なんならもう一度首を切ってもらうしか、方法はないのかもしれないが、いかんせん、ひとりではなにもできない。


 そんな時にかぎって、盗賊に襲われたりするものだ。


「おいおい、おっさんをいじめないでくれよぉ」


 なさけない声をあげるも、そこに突っ込みを入れてくれる者はいない。仲間だった者たちは、ヒロユキと共に去った後だったのだ。


 おれに残されたのは、中途半端なヒーラーの能力と、後ろ前逆についてしまった頭だけだ。


「いっひひひ。アニキィ、さっきの剣士が言っていた通り、頭が後ろ前逆の男がいますぜ。こいつを見世物にすりゃぁ、いいもうけになりまさぁーねっ」

「ぶっはははっ。天は俺たちに宝を授けたっ!!」

「おーっ!!」

「あのぉー、盛り上がっているところ申し訳ないんですが。その剣士ってのは、タレ目だけど無駄にイケメンで背が高く、剣の腕はからきしダメな男じゃありませんでしたか?」


 おれは、なにをのんきに話をしてるんだとばかりに、盗賊の親分らしき男に声をかけた。


「ああ? 見逃してやるかわりに金品よこせって言ったら、いい獲物がいるってんで、ここに来たんだ」

「やっぱりそうか。ヒロユキはおれを売ったんだな」


 だが、悪いことばかりはない。うまくすれば、こいつらに首を切ってもらえるかもしれないんだ。


「それでですねぇ。できればおれの首を切ってはくれませんかねぇ?」

「おいおい、その歳まで生きておいて自殺願望たぁーいただけねぇな。おっさん、これからは見世物になって、まっとうに生きるんだな」

「でもですねぇ」

「わんーっ!! わんわんっ!!」


 ピューヒョロロロローと、滑空してくるイヌワシの姿が見えた。このイヌワシ、わんわんって鳴くんだな。かわいい。なんて考えていたら、突然イヌワシに両肩をつかまれて、空へと飛び立った。


「ひえええ。なんてことだぁ。イヌワシさーん、おれのこと食べても、うまくないと思いますよー?」


 イヌワシは凛々しい表情を崩さず、大きく羽ばたく。いつの間にか、雨はやんでいた。


「そなたを食べようとさらったのではない。あるじからの命令で、連れてくるよう命じられただけだ」


 マジで? どこのどなたか存じませんが、とりあえず盗賊たちからは守られたってことでいいのかな?


「あのー、ちなみにどなたの元へと行くのでしょう?」


 聞いても答えてもらえないかもと思いながらも、聞かずにはいられなかった。


「主はそなたを知っておるようだった。魔法の鏡で、いつもそなたのことを探しておったのだ」

「魔法の鏡? 主さんは魔法使いなんですか? おれなんかを探して、どうするつもりなんでしょう?」

「それは主に直接聞くがいい。下降するぞ」


 そう言うなり、イヌワシは一気に下降した。眼前に見えるのは、二十代前半の猫耳の美少女。ウェーブのかかった茶色の髪をハーフアップにした彼女が、長い髪を揺らせて、おれを吊り上げているイヌワシに語りかける。


「ワッシャン!!」


 え? まさか、この美少女がイヌワシの主!? 戸惑うおれを、地上から二メートル程度のところで離された。


「わぁーーーーっ!!」

「ヒール!!」


 派手に尻餅をついたおれに、猫耳美少女はヒールの魔法をかけて治してくれた。


 と、同時に、細い右腕に巻いた革手袋の上にイヌワシを着地させる。


「はじめまして、マローンさん。いいえ、お久しぶりかな?」


 うっとりするような高音のウィスパーヴォイスでそう言うと、猫耳の美少女ははにかむように笑った。


 つづく


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