第五章 仮面の告白
第一話 午後の東屋
四月二十八日・月曜日。
校舎には、少し浮き立った雰囲気が漂っている。何しろ、今週は三日しか登校日がない――明日は昭和の日で、金曜から先はゴールデンウィークなのだ。
昼休憩のこと――中庭の東屋で、いつものメンバーと一冴は食事を摂っていた。
先週の金曜から、昼食は購買でパンを買っている――蘭からつきまとわれることを警戒した菊花が、学食は避けたいと言ったからだ。
三角シベリアを食べながら、紅子が尋ねる。
「それで――菊花は蘭先輩のこと、どうするつもりなんだ?」
菊花は不思議そうな顔をした。
「どう――って?」
「蘭先輩、つきまとってんじゃん。しかも、そのたびに菊花は隠れてるし。はっきり、つきまとうのはやめてください、つきあえません、って言うしかないと思うが。それとも、もう言ったのか?」
「うーん。」菊花は考え込んだ。「まだ。」
「いや――そこは、ちゃんと言わなきゃ駄目だろ。」
「それはそうなんだけど――。でも、どういうふうに断ったらいいか分からないっていうか。曲がりながらにも相手は先輩なんだし――」
梨恵は苦笑する。
「大変だな――文藝部は。」
一冴は首をかしげた。
「文藝部、関係なくない?」
だが――確かに大変なのだ、文藝部は。
菊花につきまとう一方、片思いの彼氏が一冴にいると蘭は思っている。
この誤解を何とか解かなければならない。
だが、菊花を横取りするつもりなのではないかとも一冴は疑われている。片思いの彼などいませんと言ったのならば、梨恵に言ったあれは何だという話になるし、そもそも何でこんなことを言うのかという話になる。ならば、
――私が好きなのは貴女です、と言うべきか。
ここ数日間、その方法を一冴は考え続けている。
けれども、告白した後はどうなるのか。
――振られるかもしれない。
たとえ振られなかったとしても、性別を偽った交際などいつまで続くのか。
「文藝部と言えば――」と紅子は言う。「明日、
梨恵は首をかしげる。
「何しに?」
「文藝部で書くものの資料を集めるために。」
紅子の言葉に、一冴はつけ加える。
「私と紅子ちゃんとでは書くもので重なるところがあるの。」
「それで、菊花と梨恵はどうする? ついてくる?」
「あー。」梨恵は残念そうな顔となる。「うちは、ちょっと買い物に行きたい感じだけん。」
続いて菊花が答える。
「私は、借りてきた本を読んじゃいたいし、プロットも一人で練りたいから。」
そっか――と紅子は言った。
「じゃ、明日はいちごちゃんと一緒に行ってくる。」
分かった――と二人は異口同音に言う。
――ところで。
先ほどから一冴は気にかかっていた。
中庭に生えた樹の陰からこちらを窺っている人影――あれは誰なのだ。
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