第十一話 一〇五号室Ⅱ
同じ頃、一〇五号室で一冴は夕食を摂り終えた。
この格好では食堂に出られないので、夕食は梨恵に運んでもらった。
山吹からいつ連絡が来るのか分からない。その時を――びくびくしながら待っている。
蘭と和解できるのか不安で仕方がない。
本物の宮廷に蘭はいる。一方、自分のメイドはコスプレだ。活きた百合と違い、造花の百合は死んでいる。そこに心が宿るなら、見る者が作り出した幻だ。
一方で、別の不安も感じていた。
本当に蘭は来るのであろうか――と。
連絡が来る時を待ち続けている。しかし、それも疑念に変わってしまうほど待たされた。いくら何でも遅すぎはしないか。もし蘭が来るのならば――山吹は何をしているのだろう。
全ては菊花の作り話という可能性もある。
だとすれば――菊花に賭けた自分は何なのだ。
ドアが開いたのはそんなときである。
顔を向けると、梨恵が帰ってきたところだった。菊花と紅子の姿もその後ろに見える。
梨恵が部屋に這入って来た。
「いちごちゃん――ご飯は食べた?」
「うん。」
お邪魔します――と言って菊花と紅子も続く。
テーブルに置かれたトレーへと、梨恵は手を伸ばす。
「じゃあ――うちは食器を返してくるけえ。」
「うん――ありがと。」
梨恵が部屋から出てゆく。
代わりに菊花と紅子が坐った。
紅子が口を開く。
「じゃあ――あとは菊花に連絡が来るのを待つだけか。」
うん――と菊花はうなづく。
しかし、一冴の中では疑念がくすぶり続けていた。
「ねえ――蘭先輩は本当に来るの?」
一瞬、動揺するような反応を菊花は見せる。
「う――うん。来るよ。」
その態度を不審に感じた。
「じゃあ――山吹さんは今なにをしてるわけ?」
「ええっと、それは――」
直後、ドアが叩かれた。
「上原さん――今いいですか?」
朝美の声だ。
一冴は息を呑む。
菊花も紅子も、動揺したように目を交わす――本来ならば、このような事態を防ぐため紅子は外で見張っているはずだったのだ。
「生理痛は大丈夫なんですか? 貴女、先日も休んでましたよね?」
応えないでいると、朝美はさらに続けた。
「ちょっと、這入りますね。」
ドアノブが動いた。
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