第四話 梨恵の違和感

授業中、菊花の言葉を梨恵は気にかけていた。


菊花の言う通り、少なくとも外部の犯行ではないのだろう。


だが、何のために盗んだのだ。


最初に菊花が疑ったのは同性愛者の蘭であった。しかしそれならば、疑わしい人物がもう一人いるはずではないか。


いや――そんなことはないとは思う。


だが、一冴いちごの言動から梨恵が違和感を抱いていることも事実だ。


一冴いちごはどことなく変わった人だ。しかし、何が変わっているのかは上手く説明できない。それでも、自分とは異質な何かを感じる。


――何が変わっている?


恋愛の対象が女性へ向くこと。軍隊や兵器に詳しいこと。夜中にどこかへ消えること。――着替えを他人に見せたがらないこと。


朝、梨恵が目を覚ますと一冴いちごは着替え終えている。そして、梨恵が着替え始めると部屋から必ず出てゆく。体育の着替えの時間も、一冴いちごは誰よりも先に着替えて更衣室から出る。


それがなぜかは分からない。


だが、まるで下着や身体を見せたがらないかのようだ。


加えて、一冴いちごの周りでは妙なことが起き続けている。更衣室にトランクスが置かれていたこと、一冴いちごの告白が盗撮されたこと、菊花のショーツが消えたこと――。


――けれど、だから何?


それらは全く別々の出来事でしかない。けれども、何かがつながりそうで、つながらないような感じがする。この違和感は――何なのだ。

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