第五話 男の娘の女子寮潜入どぴゅどぴゅ天国♡

翌日の朝のことである。


目を覚ました一冴は、尿意を感じて部屋を出た。


トイレの前まで来ると、早くに目を覚ました寮生が集まっていた。床へと目をやり、何かをささやきあっている。一冴は首をかしげ、近づいた。


「一体、どうしたの?」


寮生の一人が、恐る恐る床を指をさす。


「いや――あれ。」


その先へ視線を向ける。


途端に、目が冴えた。


床に落ちていたのは薄い本であった。表紙には、白濁した液を散らしながら交わる男女の姿が描かれている。しかも男は女の格好をしていた。


『男の娘の女子寮潜入どぴゅどぴゅ天国♡』千右京香


それがタイトルと作者名であった。


キャッチコピーもある。「男の娘になった俺氏、女子寮でハーレムになって射精が止まらない」と表紙の下のほうに書かれていた。


背筋が冷たくなる。


「一体、何の騒ぎです?」


寮生に連れられてきて、朝美が姿を現す。


寝起きらしく、白い襦袢のままだ。


「あの、先生、あれ――」


寮生が指さす先へと、朝美は目をやる。


そして、顔を引きつらせた。


「な――何ですか! これは?」


薄い本を摘まみ上げ、ページをめくり始める。


「何ですか、何ですか、この漫画は? 何ですか、どぴゅどぴゅって? 何がどぴゅどぴゅなるんですか? ま、ま、まあっ――! 何ですか、何で女の子にこんなものが生えてるんですか? 何ですか何ですか。何ですか、こっ、こっ、この過激な描写は? 何で、こっ、こんなものを咥えて、汚らしいっ、きぃ!」


そのくせして目はページに釘づけとなっていた。


蛇口をひねったように鼻から血が流れ始め、白い襦袢を染める。


やがて、一つのページで朝美の手は止まった。


白濁した粘液が一面についている。


朝美の手はべったりとその粘液に触れたところであった。


「げえっ!」


白い糸を引きながら薄い本から朝美は手を放す。


しかし、一冴は気づかざるを得なかった――朝美の手についた粘液は、まるで白い潤滑剤か木工用ボンドのようだ。少なくとも、あそこまで大量には出ないし、極端な粘性も持たない。朝美も大人ならば気づいていなければならないのだが、今は恐慌状態に陥っているようだ。


襦袢を真紅まっかに染め、白い粘液のついた手を突き出す。


「今すぐ持ち物検査です!」


そして寮生たちに駈け寄った。


「げぇっ!」


「わぁっ!」


「ぎゃーっ!」


逃げる寮生を追いかけながら、朝美は廊下を駆け始める。


襦袢を振り乱し、半狂乱となって絶叫した。


「今すぐ持ち物検査です! みんなを起こすのでーす!」

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