第三話 調査の方法
「いや――絶対おかしいね!」
いきり立って菊花はそう言った。
一冴は目を瞬かせる。
授業の合間の休み時間のこと、一冴と梨恵の席に菊花と紅子が来ていた。
衣替えの季節――制服は半袖に変わっている。手首にあった浅葱の線は二の腕へ移動し、ひんやりとした初夏の空気が肌をなでていた。
ショーツが盗まれたと力説する幼馴染の前に、一冴は考え込む。
「けど――盗むってったって、何のために盗むわけ?」
少しの間、その場は静寂に包まれる。
やや失言だったかと一冴は思う。そんなことを女子が言えるわけがない。
話を逸らすように菊花は続ける。
「まあ、どうあれ犯行の時刻は限られるね。洗濯籠はずっと部屋の中にあったし、お風呂に入るときも脱衣所には鍵をかけてた。洗濯機から目を離した隙くらいしか盗めない。」
――それはそうか。
部屋の鍵は入居者がそれぞれ持っている。当然、二人が部屋から出るときは鍵をかける。脱衣所は個室で、内側からかける小さな鍵がついている。
梨恵が疑問をはさんだ。
「けど、トイレに行くときとか、たまたま鍵をかけず二人がいなくなることもあるでない?」
「それはそうだけど――そのタイミングを見計らって盗むなんてできる? 廊下は人通りだって多いし、いつ帰って来るか分からないし。」
「まあ、そうか。」
「それにね――昨日盗まれたパンツを履いてたのは、一昨日なの。」
「そうなん?」
「うん――黄色いやつだったから間違いない。つまり、犯行予想時刻は一昨日の夜から昨日の夕方までに絞られる。あのあと、紅子と話したんだけど――その間、鍵をかけずに私たちが部屋からいなくなることは確かなかった。」
「おう、なかったぞ――多分。」
「そう考えれば、やっぱり盗まれたのは洗濯場じゃないかな?」
ふむ――と梨恵は考え込む。
「そんなわけで――二人に訊きたいんだけど、昨日の六時四十分くらいのとき、洗濯場をうろちょろしてたとか、そういう変な人は見なかった?」
先日のことを一冴は思い返す。
六時四十分頃といえば――寮へ帰って少し回ったあたりか。
「私は――そのとき部屋にいたから、何とも。」
うちも――と梨恵は言う。
「じゃあ、もう一つ訊きたいんだけど――二人とも、前にパンツが盗まれたんだよね? それって干す前に消えてた? 干した後に消えてた?」
再び考え込んだ。――記憶は既に曖昧だ。
「いや――かれこれ一か月も前のことだから――」
「何でそんなこと訊くん?」
「いや――だって、下着泥棒が寮内にいるかもしれないんだよ?」
思わず眉をひそめる。
この幼馴染のことだ――厭な予感しかない。
「まさかと思うけど――犯人を捜すつもり?」
「当り前じゃない。」
「一体――どうやって?」
「とりあえず、寮生のみんなに事情聴取かな。」
今度は梨恵も眉をひそめる。
「やめなよ――そんな犯人探しみたいなこと。」
「犯人探しみたいなことじゃない。」
「じゃあ何?」
「犯人探し。」
紅子も難しい顔をする。
「そういうのはどうかと私も思うが。」
「いや、絶対探し出してみせるね! 幸い、私はIQが百十五もあるの。事件を前にして、この頭脳を活用しないわけにはいかないでしょ!」
はあ――と一冴は首をかしげる。
「ともかくも――これまでの事件との関連性も含めて調査してゆくつもりだから。白山女子寮連続パンツ失踪事件の犯人は、必ず私が見つけ出して見せるからね!」
始業時間が近づいてきたので、菊花と紅子は自分の席へ帰っていった。
梨恵が小声で訊ねる。
「IQ百十五って、頭ええの?」
「少なくとも、
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