第六話 ホテル

菊花のメッセージに、蘭は上手く応えられない。


本当は――菊花と仲直りしたかった。


しかし蘭にとって一冴は、不快な好意を向けてくる者であり、恋敵でもある。しかも男のくせに女子寮にまぎれ込んでいる。そんな彼と仲直りしてほしいと言われても――簡単ではない。


女子寮へ帰れば彼と顔を合わせる――それが厭だ。


加えて、タイミングが遅すぎた。


従順な娘を蘭は演じ続けてきた。葉月王の好意に蘭が応え、転校することを祐介は望んでいる。今さらそれを反故することは難しい。端的に言えば――祐介のことが蘭は怖かった。


ホテルへ戻り、スマートフォンへと目をやる。


菊花から新たなメッセージが入っていた。


「一冴が白山に入ったのは、本人の意思じゃないんです。」


続いて、入学することとなった経緯が書かれていた――父親に借金があることや、麦彦の命令であることなどが。


冷ややかな視線でその文面を蘭は眺めた。


菊花は一冴に好意を持っている。だからこそ庇うのだ。しかし和解を勧められれば勧められるほど、その好意が自分に向いていない事実が胸に刺さる。比喩ではなく、きりきりとした痛みを実際に感じる。


やがて、蘭は次のように返信した。


「さうでしたか。」「ありがたうございました。」


菊花から返信はなかった。

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