第十二話 山吹の香り
翌日――二時間目と三時間目のあいだの休憩時間のことである。
実習棟から教室へと戻るために、菊花は渡り廊下を歩いていた。
前方から、一人の教師が歩いてきたのはそのときだ。
凛とした顔立ち――口元には真紅が引かれている。白いブラウスに、胸元の控えめなネックレス、紺のスカートと長い脚。
正確に言えば――その教師のことを最初、女性だと菊花は思った。
すれ違いざま、その教師は小さな声でささやく。
「菊花お嬢様。」
菊花は立ち止まる。
それが誰なのか、菊花は最初全く分からなかった。
「お判りいただけませんか? 山吹です。」
「――え?」
そして、山吹は男の声を出した。
「この声でお分かりいただけませんか?」
このときになり、ようやく気づいた。
「嘘――本当に?」
いくら菊花でも気づけるはずがない。何しろ、姿も声も完全に違っていたのだ。今の山吹は、どこからどう見ても「女教師」でしかない。
周囲を気にしてか、山吹は女の声をだす。
「御前に知られたくなかったため、女装しておりました。」
「――そう。」
そうは言われても、困惑は簡単には消えない。
「お伝えしたいことがございます。昼休憩にでもお時間はよろしいでしょうか?」
「う、うん。構わないけど――」
「他人には聞かれたくないことです。第一実習棟の西端の階段の下まで来ていただければ幸いです。」
「分かった。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます