第十一話 偽らざる自分

土日を通し、プロット作りに一冴は励んだ。


物語の舞台は、第二次世界大戦末期の伯林ベルリンから架空の世界へ移した。そもそも、最初に湧いてきたイメージは雪の降る街だったのだ。一方、伯林の戦いは四月に始まった。イメージを優先すれば史実は合わない。


今までの悩みが嘘のように全ては進んだ。


主人公は、平凡な幸福を愛する二人の少女である。平和だった頃から、お互いに気持ちを秘めていた。それを伝えられないまま戦争が始まる。戦場における立場の違いが二人を引き裂いた。


ラストで、看護兵のヒロインは目にする――重傷を負い、包帯を巻かれ、生死の瀬戸際を彷徨う主人公の姿を。二人がお互いの気持ちに気づくのもそのときだ。


ハッピーエンドではない。しかし、そちらのほうが自分らしい。


プロットを作ってゆくうちに、一冴は気づいた。


自分は――必要以上に「女」を演じようとしてはいなかったか。


少女が戦争をするという、いかにも男性が思いつきそうな物語を作ることによって、不審に思われることを恐れていた。


けれども、一冴の周りにいる少女はどうか。菊花は仏壇を寮に持ち込んでおり、蘭は女性しか愛せず、紅子は共産趣味者で、早月は残虐なホラー小説を書いている。


女性とはこうであるはずだ、それに合わせなければならないという気持ちが、偽らざる自分から一冴を遠ざけていた。


しかしその枷を一つ外した今、想像の翼は広がりつつある。

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