第二話 歓迎会

十九時――部屋で待機するように言われていた新入生たちが、上級生たちから呼ばれた。


食堂ダイニングルームへと一同は向かう。


カフェのような部屋へ這入ると、クラッカーが一斉に鳴らされた。


「「「「「入寮、おめでとー!」」」」」


壁には、「歓迎会」と書かれた色紙が貼られている。


今日はバイキング形式だ。


食堂の中央では複数のテーブルが合わせられており、フライドチキンやフライ・ウィンナーや卵焼きやおにぎり・小さなサンドイッチ・ピザ・サラダ・ジュースなどが載せられていた。その周りに、一卓で四席のテーブルがずらりと竝ぶ。


「席は自由に坐っていーよー!」


上級生の声に従い、新入生たちは迷いながら坐ってゆく。ひとまず、一冴と梨恵は隣同士となった。一冴の対面には菊花がやって来て、その隣にはルームメイトの紅子が坐る。


入寮生たちの自己紹介が始まる。寮生は五十人、そのうち十六人が新入生だ。


奥から時計回りに新入生が順番に起立し、それぞれ自己紹介を始める。


「白井椿です。一〇七号室です。」


宇津木うつぎ夏希なつきです。新潟県上越市から来ました。一〇三号室です。鈴宮市には慣れていないので、詳しい方はよろしくお願いします。」


「飴村林檎です。県内からの特待生です。ツァイちゃんとは同じ一〇六号室です。」


ツァイ梅芳メイファンです。—―台湾から来ました。」


やがて、一冴のテーブルまで順番がやってくる。


最初に菊花が自己紹介した。次は、紅子、一冴、梨恵の順番だ。


「筆坂紅子です。鎌倉から来ました。一〇八号室です。よろしくお願いします。」


「上原か――いや、上原いちごです。京都から来ました。菊花ちゃんとは親戚同士です。一〇五号室でお世話になります。どうかよろしくお願いします。」


深々と頭を下げる。


緊張したが、喉元を過ぎれば呆気なかった。


新入生の自己紹介が終わったあと、中央のテーブルから料理を取ってくる。


夕食を摂りながら会話を交わした。


菊花との関係を説明すると、梨恵は興味深そうな顔をする。


「それじゃあ――いちごちゃんと菊花ちゃんは従姉妹はとこってことか。」


「うん」と一冴はうなづく。「まあ、ほとんど会ったことないけど。だって、鈴宮市と京都じゃ離れてるし、血縁だって遠いから。」


設定が破綻しないよう気をつけながら、菊花が口を挟む。


「けど、小さい頃から会ってるよ。本家はうちだし、お盆とか正月とかはこっちに来て遊んでたの。うち、親戚が多いから。」


「そうなんだ。」


一冴は紅子へ顔を向ける。


「そんなわけで――筆坂さん、一年間、菊花ちゃんをよろしくね。」


紅子は元気のない顔をしている。


「別にいいんだけどさ、仏壇はどうかならないの?」


「仏壇?」


「東條さん――部屋に仏壇持って来てるんだけど。」


一冴はすぐ思い当たった。


「あ、やっぱり持ってきたか。」


「やっぱり――って?」


「菊花ちゃん、小さい頃から仏壇好きだったもんね。」


紅子は暗い顔をする。


「失礼だけど――東條さんって何か宗教やってるの?」


菊花はきょとんとした。


「え? うちは無宗教だよ?」


「だったら何で仏壇があるわけ? 幸科学会こうかがくかいか何かなわけ?」


「普通の浄土真宗だけど。」


「骨壺まであるし。」


菊花の祖母のことを一冴は思い出した。


「ああ――菊花ちゃん、お祖母ちゃんっ子だったもんね。菊花ちゃんが大人になるまで見守りたいから、お墓に入れないでほしいって遺言したんだっけか。」


「そう。――だから寮に持ってきたの。」


梨恵は相槌を打つ。


「そりゃ離れるわけにはいかんな。」


一冴も同意する。


「やっぱり、ご先祖様は大切にしなきゃね。」


唯一、紅子だけが顔を蒼くしていた。


テーブルに何者かが近づいてきたのはそのときだ。


「愉しさうですね?」


それは蘭だった。


「今日だけでものんびりして下さいね。お客様扱ひはあくまでも今日だけです。明日からは当番が始まりますので。」


はい――と、四人とも異口同音に答える。


寮には、朝食・夕食・皿洗い・トイレ掃除・風呂掃除の五つの当番がある。四部屋が一組となり、一日ごとに休みを挟んでローテーションする。一〇五号室から一〇八号室までは同じ組だ。


では――と言い、蘭は去っていった。


その後姿を眺めながら、梨恵は言う。


「綺麗な人だね。」

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