第18話 女王カブト

 アイレクスが通ったと思われる倒れた木々の上を歩きづらいがなるべく急いで進む。

 全開戦闘時のアイレクスの気配はそれなりの距離でも『気配感知』で捉えることが出来た。

 少なくともアイレクスには大事はないようだが、その傍にアイレクスほどでは無いが大きな気配も1つある。

 戦闘はまだ続いているようだ。


 ある程度近づくと木々をなぎ倒すような戦闘音が聞こえ始めてきた。

 その音を聞いて俺はさらに足を早めた。


 そうして戦闘音の元に着くとそこには木々がなぎ倒されて出来た巨大な広間になっていた。

 よく見ると元々草地が広がっていたようだが、戦闘によってさらに広がったようだ。


 その広間では中心部に鎮座する10mはある巨大なメスのカブトムシとそれの周囲を飛び回り、魔法スキルによる攻撃を仕掛けるアイレクス。

 その周囲で俺がうんざりするほど倒したカブトムシの上位個体と思われるカブトムシとそれらと戦う狼達の姿があった。


 その殆どが戦闘に意識を向けていて俺には気づいていないようだったが、アイレクスだけは俺にチラリと視線を寄越し、『念話』を送ってきた。


“マキシスか!? 進化したのか! ちょうどいい! 周りの取り巻き共を片付けるのをお前も手伝え!”


 は? おいどういうことだよ? 


『念話』にそう返した俺だが、アイレクスは既に俺には意識を向けていないようだった。

 どういうことだろうかとアイレクスの戦闘を見ると、メスカブトを中心に地面が泥のように流動的に動き、そこから触手のように伸びた泥が飛び回るアイレクスに攻撃を仕掛けつつ、アイレクスの魔法スキルの攻撃を防いでいた。

 アイレクスは攻撃を受けてはいないが膠着状態のようだ。

 しかし、時々アイレクスの攻撃を防ぎきれずにメスカブトは身体に攻撃を受けるが、ダメージを受けている様子がない。


 メスカブトのスキルだろうか? 

 しかし、すごい規模のスキルを使ってるな。

 どういう魔物だ? 


******************

ジャイアント・クイーンビートル:B……昆虫系

長い時を生きた【ジャイアント・ビートル】のメスが至る魔物。無数の【ラーヴァ】を産み落とし生態系を破壊する。本体の強さと配下の数で国すらも危険に晒す。尚、【ジャイアント・クイーンビートル】は基本的にオスのみしか【ラーヴァ】を産み落とさないが、ごく稀にメスの【ラーヴァ】を産み落とす。その【ラーヴァ】は普通の【ラーヴァ】では無く、特殊なスキルを有しているという。

ステータス

HP:B+ MP:B 攻撃:B 防御:B+ 魔攻:B+ 魔防:B 敏捷:B−

******************


 Bランクにもなると、被害が国規模になるのか……。

 しかし、今使ってるスキルの説明はないな。

 コイツが説明にある特殊なラーヴァだったのか? 


 ステータスを見てスキルを確認しようとした俺だったが、周囲のカブトムシ達がついに俺に気づいたのか一体が俺に突進してきた。


 俺は内心で舌打ちをして身構える。

 先程のジャイアント・ビートルよりも頑丈そうな角と甲殻を持っている。


******************

ジャイアント・ナイトビートル:D……昆虫系

【ジャイアント・ビートル】が女王を護るために進化した魔物。甲殻が大きく発達した結果速度は落ちたが耐久性が上昇した。

ステータス

HP:D+ MP:D− 攻撃:D+ 防御:D+ 魔攻:D− 魔防:D+ 敏捷:D

******************


 やはり上位個体だったらしい。

 同ランクならば苦戦する可能性がある。

 とりあえず攻撃を避けつつ、ステータスを確認しようとした瞬間。

 断末魔を上げる間もなく、カブトムシが弾け飛んだ。


 は? 


 訳もわからず呆然としつつ、俺は原型を留めていないカブトムシのステータスを確認した。


******************

名前:

種族名:ジャイアント・ナイトビートル

状態:死亡

性別:オス

LV:20/31

HP:0/214

MP:99/99

攻撃:96

防御:109

魔攻:49

魔防:95

敏捷:44

ランク:D


特性スキル:

『昆虫の甲殻:LV3』『飛行:LV3』『気配感知:LV1』『主の盾:LVー』『主の矛:LVー』


耐性スキル:

『毒耐性:LV2』『物理耐性:LV3』


攻撃スキル:

『噛み付く:LV2』『角でつく:LV3』『猪突猛進:Lv4』


通常スキル:

『救援要請:LV2』


称号:

『忠臣』


******************


 全ステータスが俺より低いな。

 レベルは俺の方が高いから当然か。

 それより突然死んだ理由はなんだ? 

 ……いや、まさかこれか? 


主の盾***************

主が受けるダメージを肩代わりする。

また、受けるダメージを軽減する。

******************


 そのスキル説明を見て、突然死んだ理由とアイレクスの言葉の意味を理解した。

 なるほど、メスカブトのノーダメの理由はメスカブトじゃなくて取り巻きにあったんだな。

 もう1つの似た名前のスキルはなんだ? 


主の矛***************

主の外敵へのダメージを増加させる。

また、僅かに外敵の防御を無視する。

******************


 む、敵へのダメージアップと防御貫通か。

 ステータスでは勝っているが、同ランクなだけにそこそこ近い。

 攻撃を何発も受ければ今の俺でもまずい。


 しかし、それほど問題では無いかもしれない。

 ざっと周囲を見渡して見ると残ったナイトカブトは20程度。

 Dランク組だと多少苦戦しているが、Cランクのヴィールヒ・ウルフは無双している。

 メスカブトのダメージを肩代わりして死んでいる奴らもいる。

 これは殆ど手助けの必要が無いな。

 でもまぁ、手伝えと言われたし手伝うか。

 っと、その前にメスカブトのステータスは確認しておくか。


******************

名前:

種族名:ジャイアント・クイーンビートル

状態:憤怒(大)・物理ダメージ軽減

性別:メス

LV:55/82

HP:922/922

MP:367/762

攻撃:381

防御:501

魔攻:461

魔防:381

敏捷:246

ランク:B


特性スキル:

『大地の加護:LVー』『蟲王の甲殻:LV5』『飛行:LV4』『大繁殖:LVー』『HP自動回復:LV4』『MP自動回復:LV2』


耐性スキル:

『地属性耐性:LV8』『状態異常耐性:LV3』『物理耐性:LV4』『魔力耐性:LV2』


攻撃スキル:

『大地の呪い:LV3』『ガイアスフィア:LV4』『地刃:LV3』『噛み砕く:LV2』『グラビティフィールド:LV1』


回復スキル:

『自己再生:LV4』『ドレインタッチ:LV2』


通常スキル:

『救援要請:LV3』『フィジカルバリア:LV3』


称号:

『特異個体』『子だくさん』『災害』『女王虫』『最終進化者』


******************


 お、おう。

 アイレクスには遠く及ばないが、俺じゃ手も足も出ないな……。

 しかし、妙な称号とスキルがあるな……。


特異個体**************

その種族が覚えないスキルを生まれつき持っている者に与えられる称号。

******************


 なるほど、名前通りではあるか。


大地の加護*************

母なる大地から賜りし加護。地属性スキルのMP消費を大幅に軽減する。また、地属性スキルの規模と威力を増加させる。

******************


大地の呪い***************

大地の加護受けし者に仇なす者を地の底に引きずり込む。また、自身の周囲の敵のHPとMPを除く全てのステータスを減少させる。

******************


 な、何だこの2つのスキル? 

 どちらも強力なスキルにも関わらずメスカブトの魔物説明にない……? 

 これがその種族が覚えないスキルか? 

 1つじゃないのかよ。

 いや、『大地の呪い』の方は『大地の加護』の付属って感じがするな。

 まぁ、それを言うなら地属性のスキルを沢山持ってるからそれも付属スキルなのだろうが。

 それにしても加護か……。

 俺の『魔なる神の加護』と関係あるのだろうか。

 いや、ないか。

 俺のは称号だしな。


 しかし、ステータスもスキルも今の俺が付け入る隙はまるでないな……。

 格上のアイレクス相手に長時間生き残ってるだけのことはある。

 俺は大人しくアイレクスの言う通り、ナイトカブトの排除を手伝おう。

 さっきまでと違って同ランクの魔物を狩れば経験値もかなり貰えるだろうしな。


 俺はメスカブトから目線を逸らし、続けて向かってきたナイトカブトに目を向ける。


 メスカブトへの身代わりとCランクであるヴィールヒ・ウルフの無双っぷりから恐らく俺が相手すべきナイトカブトは2、3体ってところだな。


 周りをざっと見ればナイトカブトの残骸が山のようにある。

 下手すれば俺がさっきまで相手してたラーヴァとジャイアント・ビートルの群れと同じレベルの規模だったかもしれないほどだ。


 目線を向けたナイトカブトはしばらく滞空し、俺と睨み合っていたが、ジャイアント・ビートルと同じように、だがそれよりも遥かに速い速度で突進してきた。


 俺はその攻撃を避けるべく、鉄の翼を打った。

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